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July 2025 の投稿一覧です。
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投稿者: furujinmachi

当院ではこれまで、大学院生の実習を継続的に受け入れ、心理職の育成に微力ながら関わってきました。その流れの中で、公認心理師のBルート(養成施設)としての指定申請を検討する機会がありました。

制度上、大学院を経ていない人が心理師資格を得るためには、Bルート指定の医療機関などでの実務経験が必要です。地域においてそのような人材を支え、質の高い臨床実習の機会を提供することには意義がある。そう感じて、申請に向けて準備を進めてきました。

詳細はこちらの記事に書いています。


しかし先日、厚生労働省の担当者とZoomで面談し、制度の詳細や要件について直接説明を受けた結果、今回は申請を見送ることにしました。

理由は大きく二つあります。ひとつは、Bルート指定にあたっては、単に実務の場を提供するだけではなく、「大学院に準ずる教育内容・体制」が求められるということ。具体的には、大学等との連携、定期的な研修や評価体制の整備、スーパービジョンの記録などが必要とされ、実質的には大学院教育とほとんど変わらない内容でした。医療機関で実施する際には、さまざまな工夫で対応できる部分もあるかと感じていたのですが、実質的に、大学院教育と同じことをして欲しいというのが厚労省の方針とわかり、これは、小規模な医療機関として日常業務を行いながら担うには、ハードルが非常に高いと感じました。

もうひとつは、スタッフへの負担です。心理職に限らず、実習生や研修者を受け入れることは、教育的配慮や倫理的対応も含めて、現場のスタッフに大きな責任と労力を求めます。厚労省の要望が、私が想定しているよりかなり高いということが分かった今、現在の体制では、指導的な質を保ちながら無理なく続けるのは難しいと判断しました。

また、今回検討を進める中で、私自身が「医療機関でBルートの実習を行う意義」に対して、今ひとつ明確な手応えを持てなかったことも大きかったです。ただ臨床の場を見せるだけでなく、体系的な学びを提供する覚悟が求められる。その点で、今の当院の役割はそこにはないのかもしれないと感じました。

とはいえ、心理職の育成に関わる姿勢そのものをやめるつもりはありません。やはり、現場で学べることが大きいことは揺るぎない事実と感じています。今後も大学院生の実習は真摯に受け入れていくつもりですし、資格を取得したばかりの方の初期研修の場として何か提供できないか、模索を続けていきたいと考えています。

公認心理師という資格に対する社会の期待、ニーズはこれから絶対に増えていくと確信しています。これから公認心理師を目指す方を、全力で応援したいと思っています。
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投稿者: furujinmachi

前回の記事の続きです。

実際のところ、患者さんの話を聞くのには以下のような工夫が必要になります。

1.「地図を持ちながら、自由に歩く」スタンス
・あらかじめ「聞くべき項目リスト」は自分の中で持っておく(メモ・チェックリストなど)
・ただし、患者さんの語りにまず耳を傾ける
・話がどこに向かうか予測しつつ、核心や背景につながる部分があれば広げて聴く
話が逸れても、後で戻れば大丈夫です。最初から型にはめないことが信頼関係の構築にもつながります。

2. 「困りごと」から丁寧に引き出す
「今日はどうされましたか?」は、最初のスタートとしては無難ですが、以下のような聴き方も有効です。
・「一番困っていることは何ですか?」
・「どんなときに特につらいですか?」
・「日常生活でどんな支障がでていますか?」
自覚的な症状が薄い人でも、「生活の中で困っていること」は話しやすい場合があります。

3. 時間の流れをゆっくりたどる
・症状の話が出たら、「それはいつ頃から?」「そのとき他に何がありましたか?」と時間軸を補っていく。
・「前はどうだったか」「今と比べてどう変わったか」といった形で、エピソードを並べてもらう。

4. 話の断片をメモし、後から補完していく
・話の途中で無理に遮って確認せず、メモを取りながら話を聴く。
・あとから「さっきの○○という話ですが…」と戻って尋ねることで、本人も気持ちが落ち着いていることが多い。

5. 本人の語りに「意味」を与えずに聞く
・特に被害的・妄想的・感情的な語りのときは、解釈や矛盾の指摘をせず、「それは怖かったですね」「つらい出来事でしたね」など、まずは感情に共感する。
内容的には、とても納得できないことでも、感情に共感することは可能です。そう思い込んでいるなら、怖かっただろうな、悔しかっただろうなと、気持ちを想像して寄り添う作業は大事です。

6. 沈黙は「情報」だと捉える
・沈黙は不快なものではなく、「言葉にしづらいこと」「考えていること」の現れ。
・無理に埋めず、時には「どうしたらお話ししやすくなるか」を聞くのも手。

7. 家族や同席者からの情報を補助的に活用
・本人がうまく話せない場合、同席家族の話を先に聞いて構造化する。
・ただし、本人の前で話していいか、家族と本人に確認を取る配慮が必要。

最後に:「全部を聞こう」としない
精神科の予診では、最初から患者さんが話さない情報もたくさんあります。詳細にこだわらず、話の大まかな流れを捉え、患者さんに共感し、関係性を構築することも大事にしてもらいたいと思います。
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投稿者: furujinmachi
私のクリニックでは、初めてきた患者さんの予診を取るのは看護師さんの仕事です。現在看護師は2名おりますが、2人とも精神科経験が長く、予診を取るのが大変上手です。患者さんからは、よくカウンセラーと間違われております。それくらい話を聞くのも上手ですし、看護師さんなんで病気やその症状、薬についてもある程度知識を持っています。

大学病院など研修期間では、研修医や若手の医師が予診を取る担当をしていることが多いと思います。場合によっては学生が実習の一環で予診をとっていることもあると思います。しかし実際には、予診ってすごく大事な部分なんですよね。そして、精神医療のことが一通り理解できていないと、なかなか必要な情報を収集することができません。

また、予診として求められることは、情報収集です。必要な情報を集めなければならないのですが、同時に、患者さんがクリニック/病院に来て、初めて自分のことを話す体験になります。なので、予診者の対応というのは、今後の治療においてとても影響します。そういう意味でも責任重大です。

そして、患者さんはこちらの聴きたいようには話してくれず、患者さんの思うように話します。そこからどうやって必要な情報を見つけ出し、収集するのか。これはコツや経験をつかんでいくほかないと思います。ある程度、数をこなす必要があると思うのです。

予診で聞くべき情報というのは、以下のような情報になります。

【1】基本情報の正確な把握
・氏名、年齢、生年月日、性別、連絡先
・紹介元の有無と紹介状の内容(ある場合)
・生活状況(家族構成、同居者、職業、就労・就学状況)

【2】主訴と来院のきっかけ
・「どんな症状で来られましたか?」
・「初めてその症状に気づいたのはいつ頃ですか?」
・「何かきっかけや変化がありましたか?」
・「受診を勧めたのは誰か?(本人か周囲か)」
可能な限り、主観的な訴え(本人の感じ方)と客観的な事実(行動、状況)を分けること。

【3】現病歴
・症状の内容(例:不眠、意欲低下、焦燥、不安、幻聴、被害妄想など)
・症状の経過(時間軸を意識:「○月頃から」「×日前から」など)
・生活への影響(仕事・学校・家庭生活など)
・受診までに本人・家族が試みた対処

【4】既往歴と家族歴
・身体疾患歴・手術歴
・精神科の既往歴(いつ・どこで・どんな診断・治療内容)
・家族に精神疾患のある方はいるか?

【5】服薬歴と薬物・嗜好品の使用
・現在飲んでいる薬(処方薬、市販薬、サプリ含む)
・精神科の薬に対する過去の反応(効果・副作用)
・飲酒・喫煙・違法薬物使用歴

【6】生活歴・性格
・性格傾向(几帳面・心配性・外交的・内向的など)
・幼少期から現在までのライフイベント(いじめ、転校、進学、就職、転職、結婚、出産など)
・ストレス耐性や対処方法

【7】社会資源の活用状況
・障害者手帳や自立支援医療の利用有無
・福祉的支援(訪問看護、就労支援、生活保護など)

【8】自傷・自殺のリスク評価(重要)
・希死念慮の有無
・自傷行為歴、自殺未遂歴
・現在のリスク(方法・計画・衝動性など)

【9】受診へのモチベーションと治療希望
・本人の受診意欲(納得しているか、嫌々来ているか)
・治療への希望・拒否(「薬は嫌」「入院は絶対したくない」など)

これらを踏まえた上で、実際の現場での工夫や注意点を次回書こうと思います。
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投稿者: furujinmachi

Kindleで購入しました。Kindleって場所取らないし、iPadminiだとかなり快適に読めます。でもやっぱり紙の本の方がいいように思うのは、昭和の人間ですかね。

発達障がいとトラウマ 理解してつながることから始める支援
amzn.asia
2,372円

読みたいと思った動機
これからはトラウマの時代になる、と言われているなか、今でも相談の多い「発達障がい」の問題と、トラウマとの関連性をしっかり把握しておきたいと思ったから。

得たい知識
理解することはもちろん、現場の診療で役に立つ、患者さんの接し方や助言、治療などについて知りたい。

発達障がいの患者さんとトラウマの関係はとても深いですが、その方だけを見るのではなくて、親の人生から見る視点を持たないと、事態の全体像が見えてきません。そして、理解できないと、共感が難しくなります。その子、その親がどのようにこれまで生きてきて、そして今の状況になっているのか。それを支援者が知り、そして知り得たことを患者さんに還元していく。それがトラウマケアとして大切なことなのかなと感じました。

トラウマケアにはトップダウンとボトムアップがあり、トップダウンは「思考」で考えて対処するやり方になります。それには、トラウマという仕組みを知り、自分の中で何が起こっているのかを知り、理性的に自分のことを理解し対処することが必要になります。

それが難しい場合は、ボトムアップの対処になります。「思考」ではなく「感覚」から、対処していく。何を「考えたのか」ではなくて、何を「感じたのか、感じているのか」を捉えていく。あるいは感覚を鍛えていく。言葉にならないその感覚を頼りに、感覚から記憶を辿り寄せていく方法です。

トラウマを抱えている人は、自分が抱えているものがそもそも「トラウマ」であるということすら認識できていないこともあります。患者さんを理解し、そして、患者さんにも自分自身のことを理解してもらう。それがトラウマケアの第一歩になります。理解することができると、その人と心理的につながることができます。心理的なつながりが、トラウマをケアしていくことになるのです。

トラウマの人を理解し、その人の生きづらさや苦労に心を寄せていく。トラウマケアって難しそうなイメージがありますが、精神科医としては普段、診療でやっていることの延長上にある過程を、丁寧にやっていくイメージなのかなと思いました。
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投稿者: furujinmachi
これで「過重労働と精神障害について」のスライドは完成になりそうです。

精神疾患からの社会復帰が難しい理由
一見回復しても「再発しやすい病態」
・うつ病・適応障害は、症状が軽減しても脆弱性が残りやすい
・休職前と同じ負荷に戻ると、再発率が非常に高い(うつ病の再発率:50%以上)

職場ストレスが回避されないまま復職するケースが多い
・原因となった職場環境が変わっていない(上司・業務量・評価の仕方)
・本人の「性格傾向」や「仕事への向き合い方」も変わっていないことが多い

周囲の理解不足・期待とのギャップ
・上司:「もう治ったならフルパワーで働けるよね」
・本人:「期待に応えなければ」と無理をする
・その結果、再発や再休職につながる

過重労働が背景にある場合の特徴と注意点
特有の心理的影響
強い自己否定:長時間労働をしても成果が出ない自分に対する失望感
学習性無力感:「どうせまた同じように働かされる」「何も変わらない」という諦め
怒りや不信感:職場に対して「裏切られた」「助けてもらえなかった」という感情が残っている
→ これらを無視した復職は、表面上の復帰だけで中身が伴わないことになりやすい

社会復帰を支えるための3つのステップ
ステップ1:主治医・産業医による医学的判断と支援
・「治ったか」ではなく、「再発リスクを管理できる状態か」を評価
・ストレス耐性の確認:一定の生活リズム、対人ストレスの処理、疲労回復力の有無

ステップ2:リワークなどの社会的リハビリ
・病院やクリニックのリワークプログラム(復職支援デイケア)
 疲労管理、ストレス対処、時間管理、認知行動療法的視点の導入
 模擬就労・集団活動を通じて、職場復帰に向けた段階的リハビリ
・医療機関がなくても、産業医面談で業務内容のすり合わせが重要

ステップ3:職場での支援と配慮
・「段階的復職」や「短時間勤務」などの調整
・明確な支援者(復職支援担当者など)の配置
・業務の見直し:過去と同じような長時間労働にならないかを確認
・心理的安全性の確保:周囲の理解と協力

実務的な工夫とチェックポイント
本人の再発予防の視点から
・「以前と同じ働き方になっていないか?」と定期的にセルフチェック
・残業が増えすぎていないか?(月20時間超えると警戒ライン)
・上司や支援者との定期面談で「違和感」や「負担感」を表明する場をつくる

職場の体制として
勤怠管理突発的な残業や休日出勤が続いていないかをモニタリング
定期面談復職後1か月・3か月・6か月などで面談し、段階的に負荷を調整
周囲の教育同僚・上司に対して「精神疾患の回復は時間がかかる」ことを伝える
フォロー役の明確化人事・上司・産業医・EAPなど、誰がいつ何をするのか明確にする

再発リスクの高い「危ないパターン」
・「とりあえず復職日が決まったので、あとは現場で…」と丸投げ
・上司の独断で「もう戻れるだろう」と判断される
・本人が「頑張りすぎて」支援を断る or 無理に仕事を抱え込む
・職場の温度差(表向きは歓迎でも、裏では冷たい態度や過去を蒸し返される)

成功する復職支援の鍵
医療:回復より「再発予防」と「職場環境とのマッチ」を重視
本人:自己理解とセルフケアの確立(「無理しない練習」)
職場:柔軟な働き方、開かれた相談体制、「復職支援チーム」の存在
社会:医療機関と職場をつなぐコーディネーター的存在(産業医・精神保健福祉士等)

さて、これで話したい内容がスライド化できました!パワーポイントにして仕上げて、当日に備えようと思います!
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投稿者: furujinmachi
10月の講演会のスライド作りの続きです。

働く本人にできる予防策
セルフモニタリングの習慣化
・自分のストレス状態を把握する工夫
 → 例:週に1回「疲れ度チェック」や「気分メモ」
 → 簡易ツール:CES-D、K6、ストレスチェック項目など
・自覚しにくい不調の前兆(睡眠・食欲・集中力)に注目
 → 「最近、朝起きられない」「夜になると不安」などがヒント

ワークライフバランスの見直し
・仕事以外の時間で「休息・回復・喜び」を得られているかを確認
・平日に「10分でも自分の時間」を確保する意識(散歩・読書・深呼吸)

相談行動を肯定的に捉える
・「相談=弱さ」ではなく、「自分を守るスキル」だと認識
・いざという時の相談先を事前にリスト化しておく
 → 産業医、保健師、上司、信頼できる人、外部窓口(EAPなど)

家族にできる予防的関わり・声かけ
「日常の変化」を察知する視点を持つ
・家族は職場とは違う視点からの異変に気づける立場
・次のような小さな変化が続くときは注意
 表情が乏しい・口数が減る
 休日に何もせず寝てばかり
 食事やお風呂が面倒そうになる

声かけのコツ(安心できる関係の中で)
NG「気のせいでしょ」→OK「最近、ちょっと元気ないみたいだけど大丈夫?」
NG「いつもと同じに見えるけど」→OK「何かあったら話してね。無理しないで」
NG「休んでばかりじゃダメ」→OK「疲れてるなら、一緒にゆっくりしようか」
→ ポイントは、評価や忠告ではなく、関心と寄り添い

一人で抱え込まない姿勢
・「家族が何とかしなければ」と思い詰めすぎない
・必要に応じて医療や職場に早めに相談・連携を促すことが大切

職場にできる予防策と日常的な対応
「予防的マネジメント」の視点をもつ
・不調が出てからの対応ではなく、不調が起きにくい職場づくりが基本
・具体策
 業務量の偏りを定期的に見直す
 勤怠データから「異変の兆候」を分析(残業急増、打刻の遅れ等)
 メンタル不調者が出た部署での振り返りミーティング(ハラスメント・過負荷の構造はないか)

信頼関係を前提とした「日常的な声かけ」
・日頃から部下・同僚に「どう?」と気軽に話しかけられる関係性をつくっておく
・雑談力・観察力は最大のメンタルヘルス資源になる
例:「今週けっこう頑張ってたよね。少し息抜きしてもいいかもよ」
  「最近忙しいみたいだけど、仕事量つらくない?」
→ ポイントは、「評価・命令口調」ではなく、観察+共感+提案

仕組みとして支援体制を整備する
・管理職研修:ラインケアの基本(声かけ、傾聴、対応ルート)
・セルフケア研修:ストレスとのつきあい方、睡眠・生活習慣の見直し
・相談先の周知
 産業医・保健師の存在を「知っている」だけでなく「利用できる」と思えることが重要
 匿名で使える外部EAPや、ハラスメント相談窓口の案内も明示

本人・家族・職場それぞれが「支え合いの輪」になる
本人:セルフケア・相談する力
家族:日常の異変に気づき、安心して話せる相手になる
職場:サインに気づく文化、相談しやすい風土、対応の仕組み   
→すべてが連携して、不調の「早期発見・早期対応」が可能に

ちょっと情報過多になって来たような気もします…全体を整えて多かったら削るようにします。
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投稿者: furujinmachi
10月の講演会の資料作りです。今日は、どんな人が危ないのか、という点をまとめようと思います。

どんな人が危ない?
過労から精神不調へ至りやすい人の特徴
性格・行動傾向
真面目・几帳面:手を抜けず、常に全力で取り組む
責任感が強い:「自分がやらなければ」と抱え込む
完璧主義:小さなミスも許せず、自分を責めやすい
頼まれると断れない:「NO」と言えず業務量が増える
周囲に弱みを見せられない:「しんどい」と言えず限界まで我慢する

こうしたタイプの人ほど、過労が深刻になるまで不調を訴えない傾向がある

どんなサインが出る?
精神的不調の初期兆候
身体面
・慢性的な疲労感・倦怠感(寝ても疲れがとれない)
・頭痛、肩こり、動悸、息切れ、めまい
・食欲不振や過食
・睡眠障害(入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒)

精神面
・イライラしやすくなる
・漠然とした不安感や焦り
・意欲の低下(好きだったことに関心が持てない)
・「自分がダメだ」と感じる(自己否定)

行動面
・遅刻や欠勤が増える
・ミスや物忘れが目立つ
・会議や雑談で発言が減る
・笑わなくなる・口数が減る
・「辞めたい」「消えたい」といった発言が増える

周囲ができるサインの“気づき方”
職場で見逃されがちな変化
表情ぼんやりしている、笑わなくなった
言動口数が減った、急に攻撃的になった
業務ミスが急増、締切に間に合わない
対人関係飲み会・ランチなどの誘いを断るようになった
生活リズム朝の出勤がギリギリ、居残りが増えた/減った
→ 「あれ、ちょっと変だな?」という違和感が最初のヒントになる

相談のタイミング
いつ・どう声をかける?
タイミングの目安
・上記のサインが複数、2週間以上継続しているとき
・明らかな「異変」が見られたとき(例:突如泣き出す、無断欠勤)
・本人が「しんどい」「眠れない」と言ったとき(その一言を逃さない)

声かけのコツ(心理的安全性を保ちながら)
NG「みんな忙しいんだから我慢して」→OK「最近大変そうだけど、大丈夫?」
NG「気のせいだよ、頑張れ」→OK「よかったら少し話す時間つくろうか?」
NG「休むなんて迷惑だよ」→OK「無理せず、相談してもいいんだよ」
→ 「評価」や「忠告」ではなく、“見守っている”というスタンスで関わることが大切

どこに相談すればいい?
社内外の相談ルート
上司・同僚:日常的な気づきと声かけ。早期キャッチの第一線
産業医・保健師:労働時間・健康面での専門対応が可能
EAP(外部相談窓口):匿名相談・カウンセリングが可能
精神科・心療内科:必要があれば医療的介入へ
本人が自分で行動できないときは、職場の誰かが橋渡し役になることが重要

組織として大切なこと
・「相談しても大丈夫な文化」をつくる
 → 日頃から上司や同僚が話しかけやすい雰囲気をつくる
・「サインに気づく・対応する」スキルを職場全体で育てる
 → 管理職研修・ラインケア研修・セルフケア教育など

ちょっとずつ進めていきます。
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投稿者: furujinmachi

10月に行う講演会の資料作りをしています。今日は、過労と精神障害との関連についてまとめようと思います。

過労が引き起こす精神障害
・うつ病
・適応障害
・不安障害・パニック障害
・睡眠障害
・心因反応・身体症状症(心身症)

どのような過労が精神障害につながるのか?
長時間労働
・時間外労働が月80時間以上 → 発症リスク大幅上昇(労災認定基準にも該当)
・睡眠不足・疲労蓄積 → 認知機能低下・気分変調・抑うつ気分へ

仕事の質的ストレス
・絶え間ない締切・マルチタスク・高い責任
・上司や同僚との人間関係ストレス
・達成感や評価の欠如

裁量の欠如・無力感
・自分で仕事量・進め方を調整できない
・「やらされ感」や「無力感」が強い環境
・心理学でいう「学習性無力感」が生じやすい

うつ病・適応障害との関係性
うつ病との関係
・セロトニンやノルアドレナリン系の神経伝達物質の不調が背景
・長期間のストレスや過労がトリガーとなり、脳のストレス応答システム(視床下部-下垂体-副腎系)を過剰に刺激
・「真面目で責任感の強い人」ほど発症リスクが高い(過労に陥りやすい性格特性)

適応障害との関係
・明確なストレス(仕事量の急増、人間関係の悪化など)に対して、6か月以内にうつ状態や不安・行動異常が生じる
・仕事の負荷が原因であることが多く、早期対応で回復が見込める
・しかし、慢性化するとうつ病へ移行するリスクあり

労災認定と司法判断の基準(現場とのつながり)
厚労省「精神障害の労災認定基準(2020年改訂)」
業務による強い心理的負荷があるかどうかを、以下の3ステップで評価
1. 業務によるストレス要因(「出来事」)の有無と強度
 例:パワハラ、長時間労働、事故体験など
2. 発病前の個人要因の有無(既往歴、性格傾向など)
3. 業務以外の出来事の影響(家庭の問題など)
→ 業務要因が主因であると認められた場合、労災認定される

過労による精神障害の実例
・事例1:営業職。新規ノルマ激増+連日22時退社、3か月後に抑うつ症状、適応障害と診断
・事例2:病院勤務の看護師。夜勤続き+人手不足による多忙。1年後にうつ病発症、休職→復職困難に

予防と対応のポイント
組織としてできること
・労働時間の把握と上限管理(36協定遵守)
・長時間労働者への産業医面談・面接指導
・パワハラ・いじめの防止(職場風土の整備)
・メンタル不調の早期発見・早期対応

個人にできるセルフケア
・十分な睡眠・休養
・頼れる相手を持つ(上司・同僚・産業医など)
・「しんどい」と口に出せる環境づくり

少しずつスライドを作っていこうと思います。
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投稿者: furujinmachi

10月の講演会の資料作りを進めていこうと思います。

講演のテーマは「過重労働と精神障害について」についてです。まず、「過重労働」とは何か?ということについて、法的基準と現場の実態についてお伝えしようと思っています。

法的基準からみた「過重労働」
法令上、「過重労働」という言葉そのものは明確に定義されていませんが、労働時間や健康障害のリスクとの関係で、厚生労働省や労災認定基準等によって一定の目安が設けられています。

労働時間に関する基準(労働基準法)
・原則:1日8時間・週40時間が上限(法定労働時間)
・36協定(時間外・休日労働に関する協定届)による時間外労働は、月45時間・年360時間が原則上限
臨時的な特別の事情がある場合でも、以下の上限あり(「上限規制」)
・年720時間以内
・単月100時間未満(休日労働を含む)
・2~6か月平均で80時間以内

労災認定の基準(精神障害との関係)
厚労省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(令和2年改訂)では、以下のような労働時間が精神障害発症のリスク要因とされています。
・発症前1か月に おおむね100時間以上の時間外労働
・発症前2~6か月間に、月平均おおむね80時間以上の時間外労働
これらの労働時間は、 「強い心理的負荷」と評価され、業務起因性が強く疑われる状態とされます。

現場の実態としての「過重労働」
法的な上限が整備されてきた一方で、実際の職場では形を変えた過重労働が存在します。

サービス残業や「持ち帰り仕事」
・タイムカード上では8時間勤務でも、実際には夜中までメール対応・資料作成をしている
・出退勤記録に現れにくい労働が増えている(テレワーク中も含む)

労働時間だけでは測れない「密度の濃さ」
・仕事の中身が高度化・複雑化(マルチタスク・短納期)
・慢性的な人員不足により、常に緊急対応に追われる
・精神的プレッシャー(例:クレーム対応、パワハラ、人間関係の悪化)

「名ばかり管理職」や「自己裁量型勤務」による盲点
・管理職で労働時間管理の対象外になり、長時間労働が常態化
・裁量労働制やフレックス制が、「労働時間管理を曖昧にする口実」となっているケースも

産業医面談の義務化:時間数と対応の目安
・時間外労働80時間未満:原則、産業医面談の義務なし(必要に応じて任意対応)
・時間外労働80時間超:本人申出があれば義務(面接指導)
・時間外労働100時間超:労災認定基準上、強い心理的負荷と評価されうる
ただし、これらの対応も、サービス残業や名ばかり管理職には対応できない現状あり

少しずつ、資料を作っていきます。
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投稿者: furujinmachi

10月は講演会ラッシュということを以前書きました。今のところ3件依頼が来ていて、そのうちの一つについては講演スライドの作成が終わりました。
10月は、労働衛生コンサルタントの筆記試験もある予定です。試験勉強も着々としておりますが、まだ時間の余裕のあるうちに、残り2件の講演スライドも作成してしまいたいと思います。

残り2件は、どちらも香川産業保健総合支援センターから依頼をいただいていて、就労と精神疾患についての話になります。これまでも、リワークデイケアや産業医活動を通じて、産業分野の活動にも力を入れてきましたが、労働衛生コンサルタントの試験勉強をするようになり、産業分野の仕組みがより理解できるようになって、それだけでも受験することにして良かったと思っています。

さて、二つ目の講演テーマは「過重労働と精神障害について」ということになっています。講演概要は下記の形で作成しました。

「働き方改革が進められる一方で、『過労死』や『うつ病による休職』といった問題はいまだ身近に存在しています。本講演では、精神科医の立場から、過重労働が心身に及ぼす影響について話をする予定です。
 具体的には、以下のような内容を取り上げます。
 · 「過重労働」とは何か? 法的基準と現場の実態
 · 過労と精神障害(うつ病・適応障害など)との関係
 · どんな人が危ない? サインの見つけ方と相談のタイミング
 · 働く本人・家族・職場にできる予防策と声かけ
 · 精神疾患で休職した後の社会復帰の難しさと支援の工夫
長時間労働の危険性について、医学的・制度的な視点を交えながら、一般の方にも理解しやすい形でお伝えします。『誰か』ではなく『自分や身近な人』のこととして考えるきっかけにしていただければ幸いです。」

これだけ市民権を得てきた精神疾患、メンタル不調問題ですが、未だに誤解や偏見も多いことを日々実感します。また、過重労働に対する認識も、まだまだ十分とは言えない現状があると思います。一時期、新型うつ病と言われる、苦手なことや嫌なことを回避し、好きなことばかりやっている若者のうつ病を批判するような風潮が強かった時期もありました。しかし、若い方でも、頑張りすぎて精神を消耗してうつ病になる方が圧倒的に多いです。

病気や障害に対する正しい知識を持っていただき、防げる労災は防いでいく。そして、残念ながら病気・障害になった方でも、再び社会復帰できるように社会で支えていく。そのような取り組みの一助となるような講演ができればと思っています。講演スライド、少しずつ作っていこうと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi
最近、精神科医療ではMBCが流行っているというか、MBC絡みの講演会が増えてきています。
MBCとは、measurement-based careの略で、患者の症状や機能の変化を定期的に測定し、その結果に基づいて治療方針を調整するアプローチです。ある意味、内科では当たり前のことだと思うのですが、精神科でも、「感覚」や「経験」に頼るだけでなく、エビデンスに基づいた客観的なデータを活用してケアの質を向上させていこうという流れになってきます。
実際、MBCをするだけでも治療成績が向上するというデータも出ています。

具体的に、MBCは以下のように実践します。
・定期的な評価:標準化された尺度を用いて、症状を定期的に評価します。
・データに基づいた意思決定:測定結果をふまえて、薬物療法・心理療法・支援の見直しや調整を行います。
・患者との共有:結果を患者さんと共有することで、患者さんに気づきを促したり、治療へのモチベーション向上を図ります。
・臨床成績の可視化:チームで、アウトカムの改善度を分析し、医療の質向上に役立てます。

結果として、以下のようなメリットが期待できます。
・治療効果の見える化:治療が効いているかどうかを定量的に把握できる。
・早期対応が可能:改善が乏しい場合、早い段階で治療方針を見直せる。
・患者の参加意識向上:点数を見ることで自分の状態を自覚しやすくなる。
・医療の質の標準化:医師や施設ごとのばらつきを減らし、標準的な医療提供が可能になる。

色々とメリットの多いMBCを、なんとか当院でも導入していこうと検討しました。本来、症状に合わせて色々な指標を使えるといいのですが、まず一番困りごとの多いうつ状態について、MBCを取り入れていくことにしました。うつ以外の病態の方でも、最終的にうつ状態を併発し、活動が落ちてしまう方も多いので、うつ状態をチェックするのは非常に重要と思います。

これまで、当院ではうつ病のチェックにSDS(Self-Rating Depression Scale)うつ自己評価尺度というものを使用していましたが、CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)うつ病自己評価尺度に変更することにしました。

CES-Dには、以下のような特徴、メリットがあります。
① 感情・身体・対人など多面的な評価が可能:CES-Dは20項目が4つの下位尺度に分かれており、以下のように構造的な分析ができます。
・抑うつ気分(例:気が沈んだ)
・身体的症状(例:睡眠がとれない)
・人間関係の困難(例:人づきあいがつらい)
・陽性感情(逆転項目:例「幸せだと感じた」)
そのため、 症状のどの側面に変化があるかを具体的に把握しやすいのが特徴です。MBCにおいては、治療がどの領域に効果を及ぼしているかを視覚的に捉えるのに非常に有効です。
② 「過去1週間」の評価という期間指定がある:SDSは期間があいまいなのに対して、CES-Dは「過去1週間」と明示されており、定期的な再測定による変化の比較がしやすいです。 MBCでは「変化を見る」ことが主目的なので、測定期間の統一性は大きな利点です。
③ 多くの研究との互換性がある:CES-Dは世界的に広く使用されており、精神科領域の文献やガイドライン、うつ病の臨床研究・介入研究でも多用されています。 他施設や研究との比較や、エビデンスとの連携がしやすいという利点があります。
④ 感度が高く、軽症うつにも対応:SDSよりも感度が高く、軽症のうつや気分変調にも反応しやすい傾向があります。プライマリケアや再発予防、維持期のモニタリングにも適しています。

7月に入ってから、少しずつ患者さんに記入してもらっていますが、お話で伺うだけでなく、客観的に把握できて、困りごとの整理がしやすくなってきたように感じます。治療に役立つことを積極的に取り入れて、診療の質の向上を図っていきたいと思います。
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投稿者: furujinmachi

この本は内的家族システム療法についてもう少し知りたくて買いました。2024年1月の購入なので、1年半ほど寝かしていたことになりますね。しかしこれで買い溜めていた本は全て読み終わりました。心置きなくAmazonプライムセールで本を買おうと思います(確かポイントはつくはず)。

カップルセラピーのための内的家族システム療法マニュアル―トラウマを超え真のパートナーシップを創造するIFIOアプローチ
amzn.asia
3,300円

読みたいと思った動機
夫婦間の問題を取り扱う参考になると良いなと思ったのと、内的家族システム療法についてもう少し知りたかったので。

得たい知識
普段の診察でも、夫婦間、パートナーシップ間の悩みはよく聞きます。何かアドバイスする上で参考になるような知識が得られると助かります。

この本は、とても良かったです。夫婦で診察室に来られて、診察室で喧嘩になるパターンというのは実際の外来でも時々あります。夫婦でなくても、親子でもそういうこともあります。私は、そういった口論になる状況が好きではなく、いつも「困ったなあ」と感じていたのですが、そういった状況での、セラピストとしての在り方についての記述も多く、大変参考になりました。

また、トラウマを抱えている人の特徴としての、「パーツ」をどう捉え、どう対応していくかという点に関しても参考になる部分が多かったです。
実際の診療では、時間は十分には取れませんが、患者さんが情緒的に不安定になった時には、「パーツ」が活性化されているという視点をもつことは重要だと思います。そのような視点が持てると、こちらも落ち着いて対応できます。患者さんにも、自分の中で何が起きているのかを理解してもらうよう、促していくことも可能です。

夫婦やパートナー関係の人は、より深く相手と関わるようになるため、それだけ、その人の抱えているトラウマを刺激するリスクも上がるのだと思います。元々の育った家庭で受けていたトラウマや、子ども時代に経験したことから生まれたトラウマが、夫婦関係・パートナー関係の中で再現されていくのです。そのことを知らずに過ごしていると、自分が悪い、相手が悪い、といった、今の関係性の中に原因を考えるようになってしまいます。そうではなくて、過去のトラウマが刺激されてしまった結果、適切ではない対処機構が出てきてしまっているのです。

そのことを理解した上で、カップルの二人を治療するというのは、個人カウンセリングにはない視点、気遣いが必要になります。どうしても、どちらかの話に焦点が当たることがありますが、その場合に、もう一人にどのような配慮をして話を進めていくか。具体的な症例の提示もあり、それらの気遣いが非常に丁寧になされていました。

診療の場面では、患者さんを一番の主軸にして対応することになりますが、同席される家族にも配慮をしていくことや、家族が話をするときに患者さんに配慮することなど、実際の現場でも大変参考になるところがありました。
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投稿者: furujinmachi

先日、患者さんがインフルエンザに感染して、そのあとから調子が悪いとおっしゃってました。特にストレスもなかったのだけれども、ということで不思議に思っているとのこと。
ウイルス感染後で高熱が出たあとにうつ状態になることが多いのですが、案外知られてないのかなと思います。

コロナ感染後は後遺症として「ブレインフォグ」と言われる病態が一時期話題になったように思います。
ブレインフォグの主な症状は以下のようなものになります。
・集中困難・注意散漫
・記憶力の低下(短期記憶が特に)
・言葉が出にくい、会話が困難
・複雑な作業ができない
・思考の鈍さ、遅さ
これらの症状は、うつ病と類似しているものが多いです。

コロナに限らず、高熱を出す感染症にかかると、脳内にも炎症の影響が及び、特に炎症性サイトカインの増加と感染後抑うつ症状の関連が強いと言われています。自律神経の不調が強くなる人も多いです。インフルエンザ感染後にうつ状態になったり、元々抱えている精神症状が悪化したりすることもよくあります。

これらの後遺症は、しばらくすると改善することが多いです。なので、「高熱を出して脳が少し疲れたんだな」くらいで受け止めておいてもらえた方がいいかなと思います。長引くようであれば抗うつ薬の追加・増量を検討します。

まず、高熱の出るウイルス感染後には一時的にうつが悪化することがある、ということを知っていただくこと。知っておくと、原因が分かり、それだけでも安心する部分があると思います。
その上で、次のような点に気をつけていただければと思います。

・無理をしないことが第一:休息を「投資」と考え、回復のための時間と捉える
・生活リズムを整える:毎日同じ時間に起き、食事・入浴・睡眠のリズムを意識する
・活動は少しずつ段階的に:疲れたら一度止まり、「今日はここまで」と決める
・深呼吸・ストレッチ・温める習慣を:自律神経を整えるために、ゆったりした呼吸・軽い運動・入浴が効果的
・不安や落ち込みも自然な反応:「こんなふうに感じるのは自分だけではない」と知ること

コロナ感染の報告もまだ定期的には聞きますし、どんなに気をつけていても、集団生活をしている中で感染を起こしてしまうことはあります。感染後にうつ状態になり、なかなか改善しない(1ヶ月以上続く)場合には、精神科/心療内科へ相談に来ていただけると、一緒に対策を考えることもできますし、すでに通院中の方は、主治医の先生に報告するようにしていただければと思います。
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投稿者: furujinmachi

「どうして私はこんなにダメなんだろう」「また失敗してしまった」。ふとした瞬間、こんな言葉が頭に浮かぶことはありませんか?誰かに言われたわけでもないのに、自分自身に対して、まるで厳しい上司、厳しい親、厳しい先生のような言葉を投げかけてしまう。こうした「自分への語りかけ」は「セルフトーク」と言われ、その影響力の大きさは、種々の心理療法で指摘されています。

私たちは普段、他人に対しては気をつけて言葉を選びます。相手を傷つけないように、勇気づけられるように、やさしい言葉やいたわりの言葉を探そうとします。けれど、自分に対しては、どうでしょうか?ミスをしたとき、疲れて動けないとき、うまくいかないとき―そんな場面で、自分を責めるような言葉がすぐに出てきてしまうのは、とても多いことです。

私自身も、なかなか自分にダメ出ししてしまうクセが抜けませんでした。でも、1日の中で、自分自身に一番多く語りかけているのは、他ならぬ自分自身です。その自分が、自分の自己肯定感を下げるような言葉やイメージをずっと繰り返していると、それは自分に良い影響を与えません。そこで、自分で自分を責めるような気持ちになっていることに気づいたら、意識してそれを変えるように練習するようにしました。

調子の良いときに、自分を肯定的に捉えることは比較的容易です。でも調子の悪いときこそ、それ以上に自分をいじめないように、自分に追い打ちをかけないように、弱っている自分をいたわるように、自分自身に語りかけること。そのことは、意識していないと実際には難しいです。

でも、もしこれが友達だったら、大切な家族だったら、なんて声をかける?そんな風に考えて、弱っている自分にかける言葉を探しました。

「疲れてるんだから、休んでいいよ」「しんどい中でよく耐えてるね」「いっぱい悩んでいっぱい考えてること、知ってるよ」

そんなふうに、自分にやさしい言葉をかける練習を重ねるうちに、自分に対して肯定的に思える気持ちが増えてきました。

自分への言葉は、自分自身に向けた「栄養」のようなものです。厳しい言葉は、ストレスホルモンを増やし、体の回復力を下げてしまうことがあります。反対に、あたたかく思いやりのある言葉は、自律神経や免疫系に良い影響を与えることが、さまざまな研究でも示されています。

たとえば、今日一日の終わりに、「また何もできなかった」と自分を責める代わりに、「今日も一日、よくがんばったね」と言ってみる。
朝起きたときに、「今日も不安だ」と思う自分に、「そんなふうに感じるのも自然なことだよ」と寄り添ってみる。
そんな小さな言葉の積み重ねが、自分との関係性をあたたかくしてくれます。

自分にやさしい言葉を選ぶことは、甘やかすことではありません。
それは「今の私」に目を向け、「今できること」を大切にする姿勢です。
もし、あなたが大切な友人に声をかけるとしたら、どんな言葉を選ぶでしょうか?
その言葉を、どうか自分自身にもかけてあげてください。
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投稿者: furujinmachi

これまでの原稿をまとめて一つの原稿に仕上げました。

タイトル「医師になってからの四半世紀を振り返って」
精神科の新薬が次々と開発・販売された時代
私はちょうど、2000年、ミレニアムの年に医者になりました。自分がもう四分の1世紀も医者をしていることになんだか驚きを感じます。働き出した頃は、精神科はまだ「定型抗精神病薬」「三環系抗うつ薬」が主流で、ほぼ100%院内処方でした。リスパダールが1996年、ルボックスが1999年、パキシルが2000年、セロクエル・ジプレキサが2001年の販売ですので、新規の薬がどんどん販売されたときでもありました。これまでの治療が大きくかわっていく転換期だったと思います。

2002年には、「精神分裂病」が「統合失調症」へ病名変更されました。正直、現場ですぐに何か変わったか、という実感はありませんでしたが、病名を告知し、治療についてもきちんと説明をするという流れになっていったと思います。

また、精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に変わりました。今まで、差別や誤解、偏見の大きかった「精神科」という分野に、少しずつ変化が起きていったように思います。

それから、香川県内のことで言うと、2003年10月に、香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足しました。この時私は大学院生だったのですが、母校の名前がどのようになるかが、気が気ではありませんでした。「香川医科大学」であった時は、私立大学なのか、専門学校なのかといった誤解も多く、「香川大学の医学部になる」というのが一番シンプルで良いと思っていたのですが、一部の人たちの中には新たな名前にしたいという動きもあったようで、「香川総合大学」とか「香川国際大学」とか、そのような名称になると、逆に国立大学と認識してもらいにくくなりそうに感じていました。香川県出身者としても、地元の大学が、特殊な名称になるのは抵抗があり、結果的に「香川大学」に落ち着いたことでホッとしました。私自身の学歴は、「香川医科大学卒業、香川大学医学部大学院卒業」といった形になり、大学院だけ別の大学に行ったみたいになりました。この統合により、のちに心理学科が教育学部から医学部に移ることにもなりました。

この頃は、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)や、SSRI(パロキセチン、フルボキサミンなど)が本格的に普及しだし、もう毎年のように新しい薬が出て、薬物治療が大きく様変わりしていきました。治療の選択肢が増えたのは嬉しい一方、それぞれの薬に特徴があり、使いこなす前に次の薬が出てくるような状況で、いったい目の前の患者さんにどの薬を処方すればいいのか、迷いも多かったように思います。

「大人の発達障害」の広まりと、単剤化の流れ
2005年に、発達障害者支援法が施行されました。このことは、発達障害という問題が注目されるきっかけの一つになりました。また、法律の制定に加えて、薬物治療の開発が、発達障害の領域では大きかったのではないでしょうか。これまで小児領域中心だった発達障害に、「大人の発達障害」という概念が出てきたのは、コンサータ(2007年販売)、ストラテラ(2009年販売)がそれぞれ大人にも適応拡大したこともかなり影響していると思います。薬物治療が出来ない頃は、発達障害は、本人の困りごとを聞いて根気よく対応指導していくという、児童精神科医でなければ対応できない分野でした。そして、児童精神科医は、子どもの診療で手一杯で、「大人の発達障害」まで十分フォローできない状況でした。しかし、薬物治療が出来ることで、専門医でなくとも患者さんの治療ができるようになっていきました。

2005年は、香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代がありました。同じ年に、私は精神保健指定医の資格を取りたくて、三光病院に異動させていただき、精神科病院での経験を重ねました。この頃、香川県立中央病院で、女性外来の担当もさせていただきました。大学病院、単科精神科病院、総合病院と働く中で、精神科といえども本当にいろんな患者さんが、本当にいろんな困りごとで来院されることを体感し、自分自身としては、将来は開業して、外来での治療に重点を置きたいと思うようになりました。

三光病院での研修を経て、再び大学病院に戻ったのが2007年でした。その前年に、自立支援医療(精神通院)制度が開始されました。これまでも通院の公費負担制度はありましたが、サービスを利用しやすくなった印象はあります。この頃、都心ではいわゆる「メンタルクリニック」が急増し、軽症・ストレス疾患の受診が増加していきました。「うつ病」の社会的認知がかなり拡大し、高松市でもクリニックを開業される先生が増えた時期だと記憶しています。

2010年頃には、抗うつ薬の多剤併用が社会問題になった状況があり、この頃から少しずつ、単剤使用の推奨、多剤使用の制限がなされてきたように思います。2014年の診療報酬改訂で、睡眠薬/抗不安薬の処方数の制限から始まり、2016年には抗うつ薬/抗精神病薬の多剤使用時の減算処置がなされるようになりました。前回の診療報酬改訂では、抗うつ薬/抗精神病薬を2種類使用した場合の説明/カルテ記載の義務化も課され、国としては今後単剤化を推奨していきたい意図が見えています。

2010年代は、自殺総合対策大綱策定の制定があり、対策を講じた結果、自殺者数がやっと減少してきた頃でもありました。しかし、2020年のコロナ感染の拡大により自殺者数が再び増加してしまったのは、皆さんご承知のことと思います。

これからはトラウマと依存症の時代
2013年には「障害者総合支援法」施行があり、長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進されていきました。

そんな時代の中、2016年に、私自身が、古新町こころの診療所を開業しました。精神科の外来治療に注力していきたいという、かねてからの夢を叶えました。来年で開業10年になりますが、開業してからの日々は本当にあっという間に過ぎていった感じです。

開業した翌年の2017年に、公認心理師制度が開始となり、国家試験が始まりました。私は当時臨床心理士を取得しており、受験資格を有していましたので、翌年2018年に受験し公認心理師の資格を取りました。しばらくは公認心理師の資格は医療現場に反映されておりませんでしたが、昨年の診療報酬改訂より心理支援加算が算定可能になり、今後ますます医療現場での活躍が期待されます。精神科医療における心理職の役割が明確化していくなかで、チーム医療の意識も徐々に強くなってきました。

そして、2020年。新型コロナウイルス感染症が拡大しました。当時は、本当にどうなるのかと思っていましたが、今振り返っても大変な数年間だったと思います。メンタル不調者は明らかに増え、自殺される方も増加。経済的な問題も大きく影響したと思います。
この頃に、オンライン診療が特例的に導入・拡大され、昨年の診療報酬改訂より通院精神療法もオンライン診療の対象となりました。個人的には、研修や学会がオンラインで受講できるようになり、自己研鑽の機会が増えたことはとてもありがたく感じています。

コロナが開けてきてからは、精神医療のアウトリーチの増加、訪問看護を利用される方が増えてきたことを感じます。また、メンタル不調の方の休職者の増加に伴い、精神科医が産業領域に関与する機会が増えてきました。

発達障害がトレンドだった2010年代を経て、2020年代以降はトラウマと依存症の時代になると言う人もいます。たしかに、発達性トラウマや複雑性PTSDの話題は、学会でもたくさんのシンポジウムで取り上げられるようになってきました。また、ゲーム依存やオンラインカジノの問題などは社会的にも大きくなっています。そのような社会情勢を踏まえると、これからの精神科診療は多様化と細分化の時代になっていくのかもしれません。発達障害、トラウマ、依存症など専門性が求められる時代になると、それらは医師だけで対応が難しくなり、診断に基づいた多職種による支援、地域連携を含めた統合的役割の中心を診療所が担う時代になっていくと思われます。

そんな中で、医師の働き方改革も進んできています。医師も含め、医療従事者が決して過労で倒れないよう、自分たちの働き方を考えつつ、これからの医療の流れに対応していきたいと考えています。医療DXやAIの飛躍も気になるところです。いったい、これからの時代に何が必要とされるか、常にアンテナを張りながら、目の前の患者さんの少しでもお役に立てるような医療の提供を目指して、これからも精進していきたいと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

原稿作成の続きです。

2013年には「障害者総合支援法」施行があり、長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進されていきました。

そんな時代の中、2016年に、私自身が、古新町こころの診療所を開業しました。精神科の外来治療に注力していきたいとの思いから、かねてからの夢を叶えました。来年で開業10年になりますが、開業してからの日々は本当にあっという間に過ぎていった感じです。

開業した翌年の2017年に、公認心理師制度が開始となり、国家試験が始まりました。私は当時臨床心理士を取得しており、受験資格を有していましたので、翌年2018年に受験し資格を取りました。しばらくは資格が始まっても、医療現場に反映されておりませんでしたが、昨年の診療報酬改訂より心理支援加算が算定可能になり、今後ますます医療現場での活躍が期待できます。精神科医療における心理職の役割が明確化していくなかで、チーム医療の意識も徐々に強くなってきました。

そして、2020年。新型コロナウイルス感染症が拡大しました。当時は、本当にどうなるのかと思っていましたが、今振り返っても大変な数年間だったと思います。メンタル不調者は明らかに増え、自殺される方も増加。経済的な問題も大きく影響したと思います。
この頃に、オンライン診療が特例的に導入・拡大され、昨年の診療報酬改訂より通院精神療法もオンライン診療の対象となりました。個人的には、研修や学会がオンラインで受講できるようになり、自己研鑽の機会が増えたことはとてもありがたく感じています。

コロナが開けてきてからは、精神医療のアウトリーチの増加、訪問看護を利用される方が増えてきたことを感じます。また、メンタル不調の方の休職者の増加に伴い、精神科医が産業領域に関与する機会が増えてきました。

発達障害がトレンドだった2010年代を経て、2020年代以降はトラウマと依存症の時代になると言う人もいます。たしかに、発達性トラウマや複雑性PTSDの話題は、学会でもたくさんのシンポジウムで取り上げられるようになってきました。また、ゲーム依存やオンラインカジノの問題などは社会的にも大きくなっています。そのような社会情勢を踏まえると、これからの精神科診療は多様化と細分化の時代になっていくのかもしれません。発達障害、トラウマ、依存症など専門性が求められる時代になると、それらは医師だけで対応が難しくなり、診断に基づいた多職種による支援、地域連携を含めた統合的役割の中心を診療所が担う時代になっていくと思われます。

そんな中で、医師の働き方改革も進んできています。医師も含め、医療従事者が決して過労で倒れないよう、自分たちの働き方を考えつつ、これからの医療の流れに対応していきたいと考えています。

原稿としては、これでまとめて提出してみようと思います。なんとか書き上げられてホッとしました。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi
原稿作成の続きです。

2005年に、発達障害者支援法施行。発達障害という問題が注目されるきっかけの一つになりました。この法律ができたことよりも、薬物治療の開発が、発達障害の領域では大きかったように思います。これまで小児領域中心だった発達障害に、「大人の発達障害」という概念が出てきたのは、コンサータ(2007年販売)、ストラテラ(2009年販売)がそれぞれ大人にも適応拡大したこともかなり影響していると思います。薬物治療が出来ない頃は、発達障害は、本人の困りごとを聞いて根気よく対応指導していくという、児童精神科医でなければ対応できない分野でした。そして、児童精神科医は、子どもの診療で手一杯で、「大人の発達障害」まで十分フォローできない状況でした。しかし、薬物治療が出来ることで、専門医でなくとも患者さんの治療ができるようになってきました。

2005年は、香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代がありました。同じ年に、私は精神保健指定医の資格を取りたくて、三光病院に異動させていただき、精神科病院での経験を重ねました。この頃、香川県立中央病院で、女性外来の担当もさせていただきました。大学病院、単科精神科病院、総合病院と働く中で、精神科といえども本当にいろんな患者さんが、本当にいろんな困りごとで来院されることを体感し、自分自身としては、将来は開業して、外来での治療に重点を置きたいと思うようになりました。

三光病院での研修を経て、再び大学病院に戻ったのが2007年でした。その前年に、自立支援医療(精神通院)制度が開始されました。これまでも通院の公費負担制度はありましたが、サービスを利用しやすくなった印象はあります。この頃、都心ではいわゆる「メンタルクリニック」が急増し、軽症・ストレス疾患の受診が増加していきました。「うつ病」の社会的認知がかなり拡大し、高松市でもクリニックを開業される先生が増えた時期だと記憶しています。

2010年頃には、抗うつ薬の多剤併用が社会問題になった状況があり、この頃から少しずつ、単剤使用の推奨、多剤使用の制限がなされてきたように思います。2014年の診療報酬改訂で、睡眠薬/抗不安薬の処方数の制限から始まり、2016年には抗うつ薬/抗精神病薬の多剤使用時の減算処置がなされるようになりました。前回の診療報酬改訂では、抗うつ薬/抗精神病薬を2種類使用した場合の説明/カルテ記載の義務化も課され、国としては今後単剤化を推奨していきたい意図が見えています。

2010年代は、自殺総合対策大綱策定の制定があり、対策を講じた結果、自殺者数がやっと減少してきたところで、2020年のコロナ感染の拡大により自殺者数が再び増加してしまったのは、皆さんご承知のことと思います。

もう少し続きます。
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投稿者: furujinmachi

原稿を書く話の続きです。

私はちょうど、2000年、ミレニアムの年に医者になりました。自分がもう四分の1世紀も医者をしていることになんだか驚きを感じます。働き出した頃は、精神科はまだ「精神分裂病」や「定型抗精神病薬」が主流で、ほぼ100%院内処方でした。リスパダールが1996年、ルボックスが1999年、パキシルが2000年、セロクエル・ジプレキサが2001年の販売ですので、新規の薬がどんどん販売されたときでもありました。これまでの治療が大きくかわっていく転換期だったと思います。

2002年には、「精神分裂病」から「統合失調症」へ病名変更されました。正直、現場ですぐに何か変わったか、という実感はありませんでしたが、病名を告知し、治療についてもきちんと説明をするという流れにはなっていったと思います。
また、精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に変わりました。今まで、差別や誤解、偏見の大きかった「精神科」という分野に、少しずつ変化が起きていったように思います。

それから、香川県内のことで言うと、2003年10月に、香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足しました。この時私は大学院生だったのですが、母校の名前がどのようになるかが、気が気ではありませんでした。「香川医科大学」であった時は、私立大学なのか、専門学校なのかといった誤解も多く、「香川大学の医学部になる」というのが一番シンプルで良いと思っていたのですが、一部の人たちの中には新たな名前にしたいという動きもあったようで、「香川総合大学」とか「香川国際大学」とか、そのような名称になると、逆に国立大学と認識してもらいにくくなりそうに感じていました。香川県出身者としても、地元の大学が、変わった名称になるのは抵抗があり、結果的に「香川大学」に落ち着いたことでホッとしました。私自身の学歴は、「香川医科大学卒業、香川大学医学部大学院卒業」といった形になり、大学院だけ別の大学に行ったみたいになりました。この統合により、のちに心理学科が教育学部から医学部に移ることにもなりました。

この頃は、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)や、SSRI(パロキセチン、フルボキサミンなど)が本格的に普及しだし、もう毎年のように新しい薬が出て、薬物治療が大きく様変わりしていきました。治療の選択肢が増えたのは嬉しい一方、それぞれの薬に特徴があり、使いこなす前に次の薬が出てくるような状況で、いったい目の前の患者さんにどの薬を処方すればいいのか、迷いも多かったように思います。

少しずつ書きます。