最近、精神科医療ではMBCが流行っているというか、MBC絡みの講演会が増えてきています。
MBCとは、measurement-based careの略で、患者の症状や機能の変化を定期的に測定し、その結果に基づいて治療方針を調整するアプローチです。ある意味、内科では当たり前のことだと思うのですが、精神科でも、「感覚」や「経験」に頼るだけでなく、エビデンスに基づいた客観的なデータを活用してケアの質を向上させていこうという流れになってきます。
実際、MBCをするだけでも治療成績が向上するというデータも出ています。

具体的に、MBCは以下のように実践します。
・定期的な評価:標準化された尺度を用いて、症状を定期的に評価します。
・データに基づいた意思決定:測定結果をふまえて、薬物療法・心理療法・支援の見直しや調整を行います。
・患者との共有:結果を患者さんと共有することで、患者さんに気づきを促したり、治療へのモチベーション向上を図ります。
・臨床成績の可視化:チームで、アウトカムの改善度を分析し、医療の質向上に役立てます。

結果として、以下のようなメリットが期待できます。
・治療効果の見える化:治療が効いているかどうかを定量的に把握できる。
・早期対応が可能:改善が乏しい場合、早い段階で治療方針を見直せる。
・患者の参加意識向上:点数を見ることで自分の状態を自覚しやすくなる。
・医療の質の標準化:医師や施設ごとのばらつきを減らし、標準的な医療提供が可能になる。

色々とメリットの多いMBCを、なんとか当院でも導入していこうと検討しました。本来、症状に合わせて色々な指標を使えるといいのですが、まず一番困りごとの多いうつ状態について、MBCを取り入れていくことにしました。うつ以外の病態の方でも、最終的にうつ状態を併発し、活動が落ちてしまう方も多いので、うつ状態をチェックするのは非常に重要と思います。

これまで、当院ではうつ病のチェックにSDS(Self-Rating Depression Scale)うつ自己評価尺度というものを使用していましたが、CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)うつ病自己評価尺度に変更することにしました。

CES-Dには、以下のような特徴、メリットがあります。
① 感情・身体・対人など多面的な評価が可能:CES-Dは20項目が4つの下位尺度に分かれており、以下のように構造的な分析ができます。
・抑うつ気分(例:気が沈んだ)
・身体的症状(例:睡眠がとれない)
・人間関係の困難(例:人づきあいがつらい)
・陽性感情(逆転項目:例「幸せだと感じた」)
そのため、 症状のどの側面に変化があるかを具体的に把握しやすいのが特徴です。MBCにおいては、治療がどの領域に効果を及ぼしているかを視覚的に捉えるのに非常に有効です。
② 「過去1週間」の評価という期間指定がある:SDSは期間があいまいなのに対して、CES-Dは「過去1週間」と明示されており、定期的な再測定による変化の比較がしやすいです。 MBCでは「変化を見る」ことが主目的なので、測定期間の統一性は大きな利点です。
③ 多くの研究との互換性がある:CES-Dは世界的に広く使用されており、精神科領域の文献やガイドライン、うつ病の臨床研究・介入研究でも多用されています。 他施設や研究との比較や、エビデンスとの連携がしやすいという利点があります。
④ 感度が高く、軽症うつにも対応:SDSよりも感度が高く、軽症のうつや気分変調にも反応しやすい傾向があります。プライマリケアや再発予防、維持期のモニタリングにも適しています。

7月に入ってから、少しずつ患者さんに記入してもらっていますが、お話で伺うだけでなく、客観的に把握できて、困りごとの整理がしやすくなってきたように感じます。治療に役立つことを積極的に取り入れて、診療の質の向上を図っていきたいと思います。