前回の記事の続きです。

実際のところ、患者さんの話を聞くのには以下のような工夫が必要になります。

1.「地図を持ちながら、自由に歩く」スタンス
・あらかじめ「聞くべき項目リスト」は自分の中で持っておく(メモ・チェックリストなど)
・ただし、患者さんの語りにまず耳を傾ける
・話がどこに向かうか予測しつつ、核心や背景につながる部分があれば広げて聴く
話が逸れても、後で戻れば大丈夫です。最初から型にはめないことが信頼関係の構築にもつながります。

2. 「困りごと」から丁寧に引き出す
「今日はどうされましたか?」は、最初のスタートとしては無難ですが、以下のような聴き方も有効です。
・「一番困っていることは何ですか?」
・「どんなときに特につらいですか?」
・「日常生活でどんな支障がでていますか?」
自覚的な症状が薄い人でも、「生活の中で困っていること」は話しやすい場合があります。

3. 時間の流れをゆっくりたどる
・症状の話が出たら、「それはいつ頃から?」「そのとき他に何がありましたか?」と時間軸を補っていく。
・「前はどうだったか」「今と比べてどう変わったか」といった形で、エピソードを並べてもらう。

4. 話の断片をメモし、後から補完していく
・話の途中で無理に遮って確認せず、メモを取りながら話を聴く。
・あとから「さっきの○○という話ですが…」と戻って尋ねることで、本人も気持ちが落ち着いていることが多い。

5. 本人の語りに「意味」を与えずに聞く
・特に被害的・妄想的・感情的な語りのときは、解釈や矛盾の指摘をせず、「それは怖かったですね」「つらい出来事でしたね」など、まずは感情に共感する。
内容的には、とても納得できないことでも、感情に共感することは可能です。そう思い込んでいるなら、怖かっただろうな、悔しかっただろうなと、気持ちを想像して寄り添う作業は大事です。

6. 沈黙は「情報」だと捉える
・沈黙は不快なものではなく、「言葉にしづらいこと」「考えていること」の現れ。
・無理に埋めず、時には「どうしたらお話ししやすくなるか」を聞くのも手。

7. 家族や同席者からの情報を補助的に活用
・本人がうまく話せない場合、同席家族の話を先に聞いて構造化する。
・ただし、本人の前で話していいか、家族と本人に確認を取る配慮が必要。

最後に:「全部を聞こう」としない
精神科の予診では、最初から患者さんが話さない情報もたくさんあります。詳細にこだわらず、話の大まかな流れを捉え、患者さんに共感し、関係性を構築することも大事にしてもらいたいと思います。