カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi
夏頃に、薬剤師さんの勉強会に講師として招待されました。うつ病関連についての講義をお願いしたいという依頼でした。参加される方は、薬剤師さんであること以外に特に条件はないようです。うちの門前薬局のように、精神科の患者さんに多く関わる薬剤師さんから、精神科の方はそんなには来ないという薬剤師さんまで、いろいろな方が参加すると思われます。
さて、どんな話をしようかな、と考えております。うつ病の基本的なところのお話でもいいのかな、とか。お薬の詳しい説明の方が喜ばれるのかな、とか。
先日来られた新患の方は、内科を受診した帰りに寄った薬局の薬剤師さんに、心療内科に相談に行ってはどうかと勧められたとのことでした。内科で睡眠薬をもらったことで、薬剤師さんに眠れていないのか聞かれ、事情を話すと、心療内科を受診した方がいいのではと勧められたとのこと。その方は、実際にうつ状態になってこられていたので、抗うつ薬の内服を開始して元気になってこられました。
精神科の開業医のところには、そもそも精神科に来ることを決心した人しか来ません。でも、その前に誰かに受診を勧められたり背中を押してもらったりしていることはよくあります。薬剤師さんは、そういう意味ではゲートキーパー的な役割を担っているところはあるのかな、と思います。
そうであるとすると、まず、うつに気づくこと。それから、どのような状況であれば積極的に心療内科受診を勧めるか。その後のフォローはどうしたら良いか。精神科のお薬が出た時に気にかけていただきたいこと。そのようなあたりをお話しできたらいいのかな、と思います。
また、薬剤師さんの声かけでかえって患者さんが混乱して、困った事態も少しあります。なかなか薬剤師さんに対してお話しさせていただく機会は多くないので、こういうことはちょっと困ったので、このようにしていただけたら助かる、ということもお願いとしてお話しできたらと思っています。
なので、最初に、患者さん2人のケースを紹介しようと思います。
1人は、薬剤師さんの声かけで、当院診につながった方。
もう1人は、薬剤師さんの声かけで、お薬を自己中断してしまい、悪化してしまった方。
この2人から、精神科医として、薬剤師さんにぜひお願いしたいこと、期待したいこととして以下の点を提示しようと思います。
・薬剤師さんが「こころの不調」に気づき、患者さんに声かけをするゲートキーパーとしての機能を持っていること。
・患者さんが精神科受診につながった際のフォロー。
・自己中断に繋がらないような声かけの工夫。
こういった内容で講演してみようと思います。
講演タイトルは『「こころの不調」に気づく〜うつ病のサインとその対応〜』にしようと思います。
具体的な内容も考えてまた後日noteに書きます。
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投稿者: furujinmachi
うつ状態になって、休養したり薬物治療を開始したりして、回復していく訳なのですが、回復期には波がある、ということは以前からよく言われていました。うつ病治療のパンフレットなどにも必ず書かれていて、よくなっても波があって、また悪くなることがあります、でもそうやってだんだんよくなっていきます、と言ったことが書かれていることが多いと思います。
ちょうど、今頃の季節の、三寒四温と言われる感じと同じですよね。寒い日があったり暖かい日があったり。それと同じように、調子のいい日があったり悪い日があったりしながら、だんだんと回復に向かっていくイメージです。
でも、当人からすると、せっかくよくなったと思ったのに、また悪くなるとすごく不安になりますよね。すごくガッカリもすると思います。なので、あらかじめ、そういうことが起きますよ、と説明しておきます。少し良くなってこられた方には、波がありながら良くなりますので、と事前に伝えるよう心がけています。
しかし、この回復の波ですが、患者さんからよくよく話を聞くと、元気になったときにちょっと動きすぎている方が多いように思うんですよね。しばらくしんどくて、やっと元気が出てきたら、今まで出来なかったことをあれこれやりたくなりますよね。それで、思った以上に動きすぎている。元気だった頃から比べると、まだまだでも、病み上がりからすると動きすぎってことがあると思うんですよね。
なので、よくなっていたのに、また悪くなってしまった、とおっしゃる方には、「ひょっとして、よくなったのが嬉しくて動きすぎませんでしたか?」と尋ねるようにしています。そうすると、「確かに、ちょっと無理したかも…」と心当たりがあったりします。
ある程度、気分の波があるのは仕方がないとはいえ、良くなったり悪くなったりを繰り返すのは辛いものです。でも、悪いときに無理に持ち上げることは出来ません。ですから、良いときに、動きたいのを少し我慢して、気持ち余力を残して過ごすようにお願いしています。このセーブが、後の悪化を防いでくれるということですね。それと、うつになる方はそもそも真面目で、ちょっと良くなると頑張りすぎてしまうので、自分をいたわり無理をしないということを体験して欲しい、という思いもあります。
ただ、うつが少し良くなると、徐々に動いた方が回復が早まるのも事実です。なので、悪化を恐れてじっとしすぎてもダメです。なので、活動する内容について工夫をしてもらう場合もあります。コツは、体を使って頭を使わないように、ということです。たとえば、家事労働で言うと、
・頭を使うこと:料理、家の中の片付け
・体を使うこと:洗濯、掃除(片付け不要の状態で)
料理でも、メインで献立や買い物をしてくれる人がいて、その方の指示のもと、材料を切ったりお皿を洗ったりだけであれば、OKになります。掃除は、散らかっていて片付けからしなければならないと、片付けに頭を使うので、単純に掃除機をかける、拭き掃除をするだけならOKということになります。あとは、散歩に行くなどの軽い運動もお勧めです。
うつ状態は、思ったよりゆっくりと良くなっていきます。焦らず回復を待っていただきたいと思います。
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投稿者: furujinmachi
うちの診療所はテナントビルの6階にあるのですが、同じビルの2階に薬局があります。いわゆる門前薬局と言われるものです。病院やクリニックの近くには、そこの病院やクリニックでもらった処方箋を受け取ってお薬を出してくれる薬局がありますよね。
私が医者になって間もない頃は、まだこの「門前薬局」のシステムはそんなに進んでいませんでした。患者さんは、病院の中で、お薬をもらえるようになっていました。特に、精神科は、患者さんに病名をお伝えしていないことも多く、お薬に関しても、何の薬を出しているかも十分説明していない状況で、院内の薬剤部の薬剤師さんが、黙って患者さんにお薬を渡していました。
ところが、私が大学病院で働き出してしばらくした頃に、そのような精神科の「例外」も認めない、特別な理由のない限りは院外処方箋にするように、との指令が病院長から下ります。厚生労働省が、医薬分業を促進し、院外処方箋受取率を上げるように指示したとのこと。
そうなると、もう大慌てでした。院外処方箋にする、ということは、患者さんに薬の全てを知られる、ということです。医者が何の薬を出していて、それがどんな効果のある薬なのか、それを薬剤師が患者さんに伝えなければいけません。ということは、患者さんに、自分の病気が何なのか、伝えなければならない、ということにもつながります。
その頃に、ちょうど、「精神分裂病」が「統合失調症」に呼称変更されたんですよね。正直、名前が変わっただけなのですが、でも名前が与えるインパクトって、すごく大きい。精神が分裂している、といったら、本当に気のふれた人のようなイメージがありましたが、統合が失調している、ということになると、精神機能の取りまとめに不調がある、というような、より病気として対処されるイメージになったと思うんですよね。
そのことと、院外処方箋の普及が、患者さんへの病名告知を大きく後押ししたように思います。それと、薬物治療の進歩も大きかったです。新しいお薬が次々と発売され、統合失調症は、早く治療を行えば、後遺症を減らし、社会復帰することが十分可能な病気になっていきました。そのため、患者さんに病気を理解していただき、適切な治療を行う、ということが積極的に行われるようになりました。
院外処方箋になった頃は、精神科医の多くは、院外薬局の薬剤師さんに対して、「お願いだから余計なことは言わないで」とヒヤヒヤしてたと思います。実際、私のいた大学病院では、門前の薬局と、事前の打ち合わせとかもしてた記憶があります。
今では、薬剤師さんに助けられることが多くて、毎日感謝の日々ですね。お薬に対する患者さんからの問い合わせに対応していてくださったり、私が処方を間違えていたら問い合わせを下さったり。私、患者さんとは薬の打ち合わせは結構細かくするので、これはああしましょう、これはこうしましょうって決めるんですけど、たくさん変更があると、たまに間違ってしまいます。お恥ずかしい話ですが間違います。だって、やはり人間ですから、ミスはあると思うんです。でもそこで、薬局でダブルチェックしていただけるのが本当に助かってます。患者さんが、「先生と、今日は薬を2錠に増やしましょうって決めたんですけど」って薬剤師さんに話してくれて、私が実際の処方箋を増やしてなかったら、診療所に確認の電話を入れてくれます。
医者一人でできることは本当に限られてます。私が医者になった頃は、とにかく医者が治療の主体でした。今でも、医者が担う役割は大きいと思います。でも、いろんなコメディカルスタッフと役割分担し、協働するというスタンスになってきて、治療の質はぐっと上がってきたように感じています。