精神科医のつぶやき「院外薬局の薬剤師さんに助けられています」 (2025/05/12)
投稿者: furujinmachi
うちの診療所はテナントビルの6階にあるのですが、同じビルの2階に薬局があります。いわゆる門前薬局と言われるものです。病院やクリニックの近くには、そこの病院やクリニックでもらった処方箋を受け取ってお薬を出してくれる薬局がありますよね。
私が医者になって間もない頃は、まだこの「門前薬局」のシステムはそんなに進んでいませんでした。患者さんは、病院の中で、お薬をもらえるようになっていました。特に、精神科は、患者さんに病名をお伝えしていないことも多く、お薬に関しても、何の薬を出しているかも十分説明していない状況で、院内の薬剤部の薬剤師さんが、黙って患者さんにお薬を渡していました。
ところが、私が大学病院で働き出してしばらくした頃に、そのような精神科の「例外」も認めない、特別な理由のない限りは院外処方箋にするように、との指令が病院長から下ります。厚生労働省が、医薬分業を促進し、院外処方箋受取率を上げるように指示したとのこと。
そうなると、もう大慌てでした。院外処方箋にする、ということは、患者さんに薬の全てを知られる、ということです。医者が何の薬を出していて、それがどんな効果のある薬なのか、それを薬剤師が患者さんに伝えなければいけません。ということは、患者さんに、自分の病気が何なのか、伝えなければならない、ということにもつながります。
その頃に、ちょうど、「精神分裂病」が「統合失調症」に呼称変更されたんですよね。正直、名前が変わっただけなのですが、でも名前が与えるインパクトって、すごく大きい。精神が分裂している、といったら、本当に気のふれた人のようなイメージがありましたが、統合が失調している、ということになると、精神機能の取りまとめに不調がある、というような、より病気として対処されるイメージになったと思うんですよね。
そのことと、院外処方箋の普及が、患者さんへの病名告知を大きく後押ししたように思います。それと、薬物治療の進歩も大きかったです。新しいお薬が次々と発売され、統合失調症は、早く治療を行えば、後遺症を減らし、社会復帰することが十分可能な病気になっていきました。そのため、患者さんに病気を理解していただき、適切な治療を行う、ということが積極的に行われるようになりました。
院外処方箋になった頃は、精神科医の多くは、院外薬局の薬剤師さんに対して、「お願いだから余計なことは言わないで」とヒヤヒヤしてたと思います。実際、私のいた大学病院では、門前の薬局と、事前の打ち合わせとかもしてた記憶があります。
今では、薬剤師さんに助けられることが多くて、毎日感謝の日々ですね。お薬に対する患者さんからの問い合わせに対応していてくださったり、私が処方を間違えていたら問い合わせを下さったり。私、患者さんとは薬の打ち合わせは結構細かくするので、これはああしましょう、これはこうしましょうって決めるんですけど、たくさん変更があると、たまに間違ってしまいます。お恥ずかしい話ですが間違います。だって、やはり人間ですから、ミスはあると思うんです。でもそこで、薬局でダブルチェックしていただけるのが本当に助かってます。患者さんが、「先生と、今日は薬を2錠に増やしましょうって決めたんですけど」って薬剤師さんに話してくれて、私が実際の処方箋を増やしてなかったら、診療所に確認の電話を入れてくれます。
医者一人でできることは本当に限られてます。私が医者になった頃は、とにかく医者が治療の主体でした。今でも、医者が担う役割は大きいと思います。でも、いろんなコメディカルスタッフと役割分担し、協働するというスタンスになってきて、治療の質はぐっと上がってきたように感じています。