テニス肘への単回ステロイド注射で1年後の転帰が悪化

一般にテニス肘と呼ばれる一側性の上腕骨外側上顆痛に対しては、コルチコステロイドの単回注射や理学療法が行われており、この2つが併用されることも多い。オーストラリアのQueensland大学のBrooke K. Coombes氏らは、これらの治療を単独実施または併用した場合の長期的な転帰への影響を調べるランダム化試験を実施し、1年後の転帰はステロイド注射群でプラセボ群に比べて有意に悪いこと、理学療法は受けても受けなくても1年後の転帰に差がないことを示す結果を得た。詳細は、JAMA誌2013年2月6日号に掲載された。

 テニス肘に対してはステロイド注射と理学療法が広く行われているが、併用した場合の効果を示した研究報告はこれまでなかった。

 著者らは、オーストラリアのBrisbaneにある大学の研究センター1カ所とプライマリケア16施設で、2×2のファクトリアルデザインのランダム化試験を行った。試験には、一側性の外側上顆痛で、中指伸展テストなどの疼痛誘発検査によりVASスコア30mmを超える疼痛があり、発症から6週以上経過している18歳以上の患者165人を登録した。「ステロイド注射のみ」群に43人、「プラセボ(0.9%生理食塩水)注射のみ」群に41人、「ステロイド注射+理学療法」群に40人、「プラセボ注射+理学療法」群に41人を割り付けた。

 ステロイドまたはプラセボの投与は割り付けから10日以内に実施し、局所麻酔薬(トリアムシノロンとリドカイン)とともにステロイドまたはプラセボを単回注射した。

 理学療法は、用手療法と運動療法からなる30分のセッションを8週間に8回実施し、自宅でも運動療法を行うよう指導した。初回はステロイドまたはプラセボの注射よりも前に実施した。なお、ステロイドかプラセボかについては盲検化したが、理学療法の有無については盲検化できなかった。

 その後1年にわたって追跡し、4週、8週、12週、26週、52週の時点での肘の状態を評価した。「完全な回復」から「非常に悪い」までの6段階で評価するリッカート尺度を用いた。

 主要評価指標は、1年後の「完全な回復」または「大きな改善」の達成および再発(4週または8週時点で完全な回復または大きな改善と判断されたが、その後の評価で悪化していた場合と定義)に設定し、intention-to-treat法により分析した。2つの治療の交互作用が有意だった場合は、一対比較を行った。

 1年後の転帰においては、ステロイド注射と理学療法の間に交互作用は見られなかった。ステロイドを投与した2群では、「完全な回復」または「大きな改善」の達成率はプラセボを投与した2群に比べて低く(ステロイドの2群では83%、プラセボの2群では96%)、相対リスクは0.86(99%信頼区間0.75-0.99)だった。再発率もプラセボの2群に比べて高かった(54%と12%、相対リスクは0.23、0.10-0.51)。

 理学療法を行った2群と行わなかった2群の比較では、「完全な回復」または「大きな改善」の達成率に差がなかった(91%と88%、相対リスクは1.04、0.90-1.19)。再発率にも差はなかった(29%と38%、相対リスクは1.31、0.73-2.35)。

 一方、4週の時点ではステロイド注射と理学療法の交互作用は、「完全な回復」(P=0.01)、「大きな改善」(P=0.01)、QOL(P=0.004)などで有意だった。具体的には、理学療法を行わなかった2群のうち、ステロイドを投与した群はプラセボを投与した群に比べて転帰が良好で、「完全な回復」または「大きな改善」の相対リスクは7.32(2.1-25.5)だった。疼痛やQOLなども有意に改善していた。しかし、理学療法を行った2群では、ステロイド投与群とプラセボ投与群で転帰に有意差はなく、「完全な回復」または「大きな改善」の相対リスクは1.73(0.97-3.08)で、QOLなどにも差は見られなかった。

 なお、ステロイド注射を行った2群間の比較では、理学療法を行った群と行わなかった群で、いずれの評価指標でも有意差は見られなかった。一方、プラセボを注射した2群間の比較では、理学療法を行った群は、理学療法を行わなかった群と比べて「完全な回復」または「大きな改善」が多く、相対リスクは4.00(1.07-15.00)と有意に改善していた。疼痛軽減効果にも差が見られた(P<0.001)。

 しかし26週の時点では、1年後と同様に、ステロイド注射と理学療法の間に交互作用は見られなかった。「完全な回復」または「大きな改善」の達成率は、ステロイドを投与した2群では55%、プラセボを投与した2群では85%(相対リスク0.79、0.62-0.99)だった。理学療法を行った2群では71%、行わなかった2群では69%で、相対リスクは1.22(0.97-1.53)と有意差はなかった。

 慢性の一側性外側上顆痛の患者に対するステロイド注射は、プラセボ注射に比べて1年後の転帰を悪化させていた。また、理学療法は1年後の転帰に有意差をもたらさなかった。