日経メデイカル2011年5月号のトレンドビューにこんな記事が

健康な人でもしばしば激痛を経験する「こむら返り」。腰椎変性疾患や糖尿病などでは発生頻度が高く、中には日常生活に支障を来す人も。そんなこむら返りに有効な、治療の工夫を紹介する。

布団に入ってうとうとした頃に、ふくらはぎに激痛が──。多くの人が一度は経験したことがある「こむら返り」。だが、毎晩のようにこむら返りが起こり、不眠に悩む患者もいる。
10年前から慢性腰痛と両下肢痛がある68歳の男性。1年前から高山整形外科病院(東京都葛飾区)で腰痛に対する神経ブロックを行い、軽作業を行えるまで回復していたが、10カ月前から左下腿腓腹筋にこむら返りが起こるようになった。最近は運転中にも起こるようになったため、外来診察時に同院院長の伊藤博志氏に打ち明けた。

伊藤氏は、深腓骨神経ブロックを左側に施行。すると、その日の夜からこむら返りは起こらなくなり、その後数カ月間の経過観察中も再発を認めなかった。「こむら返りが起こりやすくなったのは年齢のせいとあきらめている患者は意外と多い。丁寧な問診で拾い上げる必要がある」と伊藤氏は話す。

脊柱管狭窄症の4割は高頻度
こむら返りは、腓腹筋や足指筋に突然起こる一過性の痙攣で、強い痛みを伴う。発症の詳細な機序は分かっていないが、末梢神経の異常興奮や、筋肉内の電解質異常などが関与していると考えられている。

 健康な人でもしばしば悩まされるこの症状。腰椎変性疾患の患者では特に頻度が高いことが近年、明らかになってきた。

 慶応大整形外科准教授の松本守雄氏は2000〜06年にかけて腰部脊柱管狭窄症の手術を受けた患者120人(平均年齢73.5歳)と、健康な高齢者370人(同75.6歳)を対象にアンケートを実施。それによると、こむら返りの経験があるのは、健康な高齢者の37%に対し、狭窄症患者では71%。そのうち57%(全体の約4割)では、「数日に1回」以上の頻度でこむら返りが起きていた。大半は夜間就寝中に起きており、「患者の日常生活を脅かす、看過できない問題」と松本氏は指摘する。
狭窄症に対する手術を受ける前からこむら返りを起こしていた患者79人のうち、術後にこむら返りが改善したのも16人(20.2%)のみ。これには、手術による腰痛の改善で日常の活動性が増加し、筋肉疲労を招くという原因も考えられている。

指・第2指間の注射が著効
 冒頭の症例で伊藤氏が施した深腓骨神経ブロックは、深腓骨神経の末梢部、母指と第2指MP関節の間の圧痛点に、3〜5mLの局所麻酔薬を注射する方法だ。「30ゲージの細い注射針でゆっくり注入すると痛みも少ない」(伊藤氏)。

 そもそも同氏がこの部位の神経ブロックを始めたのは、腰椎変性疾患の手術後に残る、足先の冷えやしびれに対する効果を期待してのことだった。こうした症状に加えてこむら返りがよく起こる患者に施行してみたところ、こむら返りにも高い効果があることが偶然、分かったという。

 伊藤氏はこれまで、腰椎変性疾患に伴うこむら返りで日常生活に支障が出ていた患者32人に対し、この深腓骨神経ブロックを実施。結果、全例でこむら返りの発生頻度が1カ月に1回以下に減少した。「1度行えば数カ月間、効果が持続する」と言う。
もっとも、「深腓骨神経ブロックがこむら返り全般に効くかどうかは未知数だ」と伊藤氏。こむら返りに悩む人は腰椎変性疾患のほか、肝硬変や甲状腺疾患などの内科系疾患の患者や透析患者にも多い。

糖尿病もこむら返りが起こりやすい疾患の一つ。東京女子医大東医療センター内科准教授の高橋良当氏が外来通院中の糖尿病患者4542人に行った1998年の調査では、1378人(30.3%)が過去1〜2カ月の間にこむら返りを経験しており、そのうち296人(全体の6.5%)は週1回以上の頻度でこむら返りを起こしていた。

低Mgで筋弛緩に障害
 こむら返りの発生頻度を減らす治療法には、芍薬甘草湯やタウリンなどの投与、就寝前のストレッチやマッサージがある。ただ、いずれも効果を裏付けるエビデンスは確立しておらず、効いたと思っても服用をやめると、再発するケースも多い。糖尿病に伴うこむら返りにはエパルレスタットが有効とする報告もある。

糖尿病専門医である加藤内科クリニック(東京都葛飾区)院長の加藤光敏氏は、マグネシウム(Mg)の効果に着目。「糖尿病患者の血清イオン化Mgを測定してみると、潜在的な低Mg血症を来している人が多いことが分かる。それは、高血糖による浸透圧利尿やインスリン抵抗性の増大などで尿中のMg排泄量が増加しているためと考えられる」と説明する。Mgが不足すると、筋弛緩に関わるカルシウムポンプの働きが弱まり、こむら返りが起こりやすくなるというわけだ。

加藤氏は、「食生活を見直し、Mgを多く含む緑黄色野菜や雑穀類、海藻などを積極的に摂取すべき」と話す。ただ、忙しくて栄養が偏りがちな人や、早くこむら返りを治したい人に、高濃度のMgを含んだ天然ミネラル濃縮液(マグネフォースなど)のサプリメントでMgを補充するよう勧めることも多い。「濃縮液を食事やお茶などに2〜3滴たらし、毎日10〜20滴摂取してもらうと、運動・ゴルフなどでのこむら返りが明らかに軽減する」と加藤氏。ただし高度腎機能障害の患者では、高Mg血症を来す可能性があるので過剰摂取には注意が必要だという。


こむら返り=芍薬甘草湯の処方はよくやりますが、ブロックですか・・・
なかなか興味深いレビューでした。