過去の投稿

August 2009 の投稿一覧です。
カテゴリー: 総合
投稿者: hasegawa1
COPDという病気をご存じですか?横文字だし,あまり耳慣れない言葉でしょうか?
COPDは,Chronic Obstructive Pulmonary Diseaseの頭文字をとったもので,日本語では「慢性閉塞性肺疾患」と訳されます.有害なガスなどの吸引で,緩徐に肺機能低下が進行し,多くの例が酸素を必要とするようになり,ついには死亡に至る病ですが,この「有害なガス」の代表格がタバコの煙,つまりは喫煙です.少なくともわが国では,タバコを吸わない人がCOPDに罹患する確率はほぼ0です.「ほぼ」と言ったのは,周りにヘビースモーカーが大勢いる人は,副流煙の影響が無視できないからです.要するに,COPDの原因はほぼ100 %タバコにあるとも言えます.

しかし,喫煙者が全員COPDになるわけではありません.タバコをぷかぷかやりながら90歳まで元気で長生きされる方ももちろんいらっしゃいます.これは,タバコに対する感受性に個人差があるからだと考えられます.タバコの煙に強い人,弱い人がいるということですが,残念ながら今のところそれを見分ける方法がありません.

COPDでは,歩行時の息切れなどの症状が極めて緩やかに進行するため,症状を訴えて病院を受診する頃には,すでにかなり進行した状態であることが少なくありません.もちろん,全ての喫煙者が禁煙することが望ましいことは言うまでもありませんが,喫煙される方は少なくとも年一回くらいは肺機能検査をお勧めします.その時の肺機能だけでなく,定期的に行うことで肺機能の経時的な変化を知ることができます.そしてこれが,先に述べたタバコ感受性を予測するための最良の手段となるのです.非喫煙者でも年齢とともに肺機能は少しずつ低下します.しかし,もしそれをはるかに上回るペースで肺機能が低下しているとすれば,その人はタバコに弱い人で,喫煙を続けるとほぼ確実にCOPDになります.着々と弱っていく自らの肺機能を見せつけられれば,禁煙への強い動機付けにもなることでしょう.
カテゴリー: 総合
投稿者: hasegawa1
年末に危惧していた新型インフルエンザですが,予想とは違う形で騒動を起こしましたね.成田で患者が発見された時点で国内発生は時間の問題と思っておりましたが,まさか第一例がよりによって神戸で発見されるとは思いませんでした.
今度の騒動は,実際に強毒性の感染症が入ってきた場合の危機管理モデルとして,正しかった点や問題点を整理しておく必要がありそうです.また,そうでなければ大騒ぎした意味がありません.
まず水際作戦.全く無駄だとは言いませんが,少しやりすぎでしたね.どのみち水際で完全にくい止めるということは不可能で,せいぜいその時点ではっきりとした症状のある人を隔離する位のことしかできないわけですから,検疫所での検疫を少々強化するだけでよかったと思います.機内検疫は明らかにやりすぎ!

次に国内発生からの大騒動ですが,これもちょっと騒ぎすぎましたね.そもそも今回発生したインフルエンザは弱毒性で従来のインフルエンザと変わらないレベルの毒性しかなかったのです.ただ,危機管理という点からいけばまずは最悪の場合を想定した措置をとること事態は悪くはないと思います.というか,わが国には強毒性の新型インフルエンザが発生した場合のモデルしかなかったのですから,その時のリハーサルもかねてそのモデルを発動することはまあいいかと思うわけです.
そのモデルとは,国内発生早期では徹底的に患者を隔離し蔓延を避けるということに重点が置かれ,発熱のある疑い例は一般の医療機関を受診せずに所定の発熱外来を受診し,感染例と診断されれば入院,隔離されます.ところが,ある程度患者が増えてしまって蔓延期となればこの方針は180度転換され,疑い例は一般の医療機関で診療,感染例と診断されても軽症例は自宅待機,重症例のみ入院ということになります.今回はこの転換がスムースに行われなかったことが医療現場に少なからず混乱をもたらしたように思います.そもそも「国内感染早期」はそう長く続きません.というか,国内発生早期の体制をそう長くはとれないということです.感染症を隔離することのできる病床数には非常に制約がありますので,まず病床がパンクします.また,発熱外来というのもハード,ソフト両面で限りある医療資源ですので,次には発熱外来がパンクします.この時点でもう蔓延期として対応せざるを得ないのです.つまり,今回のことを考えると,今回のインフルエンザと同等の感染力を持つ感染症の場合,国内で初めての症例が確認されてから蔓延期となるまで一週間以内ということが言えます.今回の場合には,通常のインフルエンザと同等の毒性ということがわかっていたわけですから,発熱外来や隔離病棟のキャパシティーがいっぱいになった時点ですみやかに蔓延期での対応に移行すべきでした.少なくとも数日遅かったですね.
それからマスク騒ぎ.これはちょっと滑稽でした.そもそもマスクの意味の大部分は咳やくしゃみが出る人がマスクをすることによって,その人の飛沫が飛び散らないという点にあるのであって,健康な人が普通に町を歩く時にマスクをかける意味は全くないと言ってよいでしょう.

考えてみると,今回の騒動はある意味医学の進歩がもたらしたものです.たとえばインフルエンザの診断キットが世の中になかったらどうでしょう(事実,このキットが使用されるようになったのは,たかだかここ10年ほどのことです.)?「今年はかぜのシーズンが例年より少し長く続くなぁ」って感じるか感じないか位で終わっていたでしょうね.
一方,今回のインフルエンザが強毒性であったとしたらどうでしょう?感染病棟や発熱外来は量的,質的に十分だったでしょうか?とてもそうは言えそうにありません.国内第一例の発生から一週間と経たないうちに,われわれ一般の診療所が疑い例や感染者の診断,治療にあたらなければなりません.準備はいいでしょうか?この秋から予想される第二波による大流行が危惧されるところです.