スタートレックというTVをご存じだろうか

 スタートレックというTVをご存知だろうか、1960年代のTVシリーズで始まり、今でも設定を変えて新シリーズがつづいているアメリカのSF宇宙物の代表である。70年代には、劇場版がいくつか作られて大変な人気を博した。耳がピンとたったミスタースポックというとなんとなく聞いた人がいるのではないだろうか。
私が30代後半のある日その劇場版をみていて忘れられないシーンに出くわした。
ある、一場面が私の医者としての考えかたを一変してしまった。大げさにいえば、私の医者としての人生を変えてしまったのだ。

 私は、今は、内科をしているが、元々はバリバリの外科医であった。
 学生で臨床研修をしている時に、腹部なんかの難しい症例では、レントゲンやCT、検査データをみながら、なかなか診断が決まらないことが多く、時として、カンファランスで決定することは次にする検査だけなのだ。治療までは、なかなか行き着かない。
気が短い私の心のなかは“どうせ手術するなら早く切ってしまえ”だった。

 30代後半というと外科として油が乗り切っている時で、自分のやることにかなり自信をもっている時でもあった。内科が治療できないものを外科が引き受けて手術する。という思いがどこか心の底にあった様な気がする。

スタートレックのドラマは2200年代の未来で、宇宙戦艦が、未知の宇宙で冒険の旅をする設定である。
詳細は定かではないが、その中に出てくるドクターが、タイムトラベルで現代に迷い込んだ時のことである(やや意識がもうろうとしている)そこで発した言葉が、私には衝撃的であった。
 “今すぐ、病院にゆかなければいけない!この時代の病院では、人を切るという野蛮なことをしている。”

ガーーーーーーーーン!!!!!!

 そうだ自分の今していることは、医療として一番野蛮なことをしているのだ。
そういえば、古代遺跡から頭蓋骨に穴を開けてその後生きていた証拠の骨がいくつも見つかっているし、他の遺跡からも外科手術をした跡がある骨が発掘されている。(ほとんどが宗教的に穴を開けていたようだが)ヒポクラテスの時代から切除治療というのは延々と続けられているのだ。
 他にいい方法がないからしかたなく悪いところを切って捨てる。ただそういう野蛮な行為に過ぎないのだ。
 それからというもの医者としては、自分がやっていることに対していくぶんなりと謙虚になったような気がする。(少なくとも自分の中では)

今の外科医のなかには腹腔鏡を駆使して腫瘍を取ったり、3D画像を駆使して最小限の切除をしたり、自分のやっていることが高度な技術であるという人もいるかもしれないが
所詮、医学全般で見れば、他に方法がないから、切ってとっているだけなのだ。
切って取れば必ず少なからず機能障害はくる。例えお腹の中の手術でも、目に見えたら、片腕や片足を切っているのと大差ないのだ。
外科が存在する限り、人類の医学というのは幼稚であるといって間違いないと思う。
しいて言えば、いまの医学はまだ未熟な領域であるといえる。

それだけに、自分ができることは、一所懸命、患者と向き合い、よく診ることであると思っている。

いまの若いドクター(一部の若くない人も)を見ていると、自分のしていることに酔いしれいているドクターが多々見受けられる。
 どの職業でも同じだと思うが、一生懸命没頭すると自分がやっていることに盲目になってしまう。
だが、今一度、自分のやっていることを冷静に考えてみてほしい。