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25 July 2025 の投稿一覧です。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

当院ではこれまで、大学院生の実習を継続的に受け入れ、心理職の育成に微力ながら関わってきました。その流れの中で、公認心理師のBルート(養成施設)としての指定申請を検討する機会がありました。

制度上、大学院を経ていない人が心理師資格を得るためには、Bルート指定の医療機関などでの実務経験が必要です。地域においてそのような人材を支え、質の高い臨床実習の機会を提供することには意義がある。そう感じて、申請に向けて準備を進めてきました。

詳細はこちらの記事に書いています。


しかし先日、厚生労働省の担当者とZoomで面談し、制度の詳細や要件について直接説明を受けた結果、今回は申請を見送ることにしました。

理由は大きく二つあります。ひとつは、Bルート指定にあたっては、単に実務の場を提供するだけではなく、「大学院に準ずる教育内容・体制」が求められるということ。具体的には、大学等との連携、定期的な研修や評価体制の整備、スーパービジョンの記録などが必要とされ、実質的には大学院教育とほとんど変わらない内容でした。医療機関で実施する際には、さまざまな工夫で対応できる部分もあるかと感じていたのですが、実質的に、大学院教育と同じことをして欲しいというのが厚労省の方針とわかり、これは、小規模な医療機関として日常業務を行いながら担うには、ハードルが非常に高いと感じました。

もうひとつは、スタッフへの負担です。心理職に限らず、実習生や研修者を受け入れることは、教育的配慮や倫理的対応も含めて、現場のスタッフに大きな責任と労力を求めます。厚労省の要望が、私が想定しているよりかなり高いということが分かった今、現在の体制では、指導的な質を保ちながら無理なく続けるのは難しいと判断しました。

また、今回検討を進める中で、私自身が「医療機関でBルートの実習を行う意義」に対して、今ひとつ明確な手応えを持てなかったことも大きかったです。ただ臨床の場を見せるだけでなく、体系的な学びを提供する覚悟が求められる。その点で、今の当院の役割はそこにはないのかもしれないと感じました。

とはいえ、心理職の育成に関わる姿勢そのものをやめるつもりはありません。やはり、現場で学べることが大きいことは揺るぎない事実と感じています。今後も大学院生の実習は真摯に受け入れていくつもりですし、資格を取得したばかりの方の初期研修の場として何か提供できないか、模索を続けていきたいと考えています。

公認心理師という資格に対する社会の期待、ニーズはこれから絶対に増えていくと確信しています。これから公認心理師を目指す方を、全力で応援したいと思っています。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

前回の記事の続きです。

実際のところ、患者さんの話を聞くのには以下のような工夫が必要になります。

1.「地図を持ちながら、自由に歩く」スタンス
・あらかじめ「聞くべき項目リスト」は自分の中で持っておく(メモ・チェックリストなど)
・ただし、患者さんの語りにまず耳を傾ける
・話がどこに向かうか予測しつつ、核心や背景につながる部分があれば広げて聴く
話が逸れても、後で戻れば大丈夫です。最初から型にはめないことが信頼関係の構築にもつながります。

2. 「困りごと」から丁寧に引き出す
「今日はどうされましたか?」は、最初のスタートとしては無難ですが、以下のような聴き方も有効です。
・「一番困っていることは何ですか?」
・「どんなときに特につらいですか?」
・「日常生活でどんな支障がでていますか?」
自覚的な症状が薄い人でも、「生活の中で困っていること」は話しやすい場合があります。

3. 時間の流れをゆっくりたどる
・症状の話が出たら、「それはいつ頃から?」「そのとき他に何がありましたか?」と時間軸を補っていく。
・「前はどうだったか」「今と比べてどう変わったか」といった形で、エピソードを並べてもらう。

4. 話の断片をメモし、後から補完していく
・話の途中で無理に遮って確認せず、メモを取りながら話を聴く。
・あとから「さっきの○○という話ですが…」と戻って尋ねることで、本人も気持ちが落ち着いていることが多い。

5. 本人の語りに「意味」を与えずに聞く
・特に被害的・妄想的・感情的な語りのときは、解釈や矛盾の指摘をせず、「それは怖かったですね」「つらい出来事でしたね」など、まずは感情に共感する。
内容的には、とても納得できないことでも、感情に共感することは可能です。そう思い込んでいるなら、怖かっただろうな、悔しかっただろうなと、気持ちを想像して寄り添う作業は大事です。

6. 沈黙は「情報」だと捉える
・沈黙は不快なものではなく、「言葉にしづらいこと」「考えていること」の現れ。
・無理に埋めず、時には「どうしたらお話ししやすくなるか」を聞くのも手。

7. 家族や同席者からの情報を補助的に活用
・本人がうまく話せない場合、同席家族の話を先に聞いて構造化する。
・ただし、本人の前で話していいか、家族と本人に確認を取る配慮が必要。

最後に:「全部を聞こう」としない
精神科の予診では、最初から患者さんが話さない情報もたくさんあります。詳細にこだわらず、話の大まかな流れを捉え、患者さんに共感し、関係性を構築することも大事にしてもらいたいと思います。