精神科医のつぶやき「本から得た知識のシェア|対人関係療法でなおすトラウマ・PTSD」 (2025/06/30)
投稿者: furujinmachi
この本も再読なのですが、とにかく昨今のトラウマ対応の重要性を踏まえ復習しようと思いました。
対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD:問題と障害の正しい理解から対処法、接し方のポイントまで
amzn.asia
1,650円
読みたいと思った動機
まず、トラウマ・PTSDについてきちんと知識を持ち、正しく対処できるようになりたいということ。このシリーズは、何をするべきかがはっきり提示されているので、とても参考になります。
得たい知識
トラウマ・PTSDに対する正しい知識。そして正しい対応、治療法。
忙しい臨床の中でも使えそうなものがあればそれも知りたい。
対人関係療法でトラウマケアをする最大の特徴は、他のトラウマケアと違って、トラウマそのものにはあまりアプローチしない、という点だと思います。トラウマを思い出したり、トラウマに対する処理を何かする、ということは原則しません。トラウマを受けた結果として、今何が起こっているのかを理解し、周囲の人にも理解してもらうことを一番重視しています。そして、本人が少しでも安心していられるように、どう対処したらいいのか、それを話し合って考えていくというのが治療になっていくと言えると思います。
対人関係療法全般で言えることだと思うのですが、心理教育をけっこうしっかりやるんですよね、そして本人や周囲が困っていることが、本人の「性格」なのか、病気の「症状」なのかをきっちり分けていく、という作業を丁寧にやります。きちんと見ると、困りごとの多くは「性格」ではなく「症状」だということが分かります。
トラウマ反応で多いのは、解離と過剰反応です。解離すると、本来感じるべき感情を感じずに、記憶すら曖昧になってしまいます。これは、辛かった出来事を乗り切るために本能的に脳が対処していることで、本人は何も悪くありません。解離をよく起こす人は、感情を感じにくくすることでストレスを乗り切ろうとしていて、大きなトラウマ体験の時にはそれがもちろん有効な対処法なのですが、平時の時に解離ばかりしているとおかしなことになってきます。楽しみや喜びなどポジティブな感情も感じられなくなったり、日常のことをあまり覚えていなくて、生活の支障が出たりします。その場合には、解離したときに、本当は何を感じていたのかを考える練習をしていく必要が出てきます。治療者の方から、「こういうときは腹が立ったりすることが多いですね」「そういうときには悲しくなるのが一般的です」といった提案をして、本人が自分の感情に気づけるようサポートすることもあります。
過剰反応の人の場合は、何か自分が「危険」と感じる出来事に遭遇すると、すごく攻撃的になったりします。自分へ攻撃性が向いて自傷行為になることもありますし、周りに攻撃性が向いて暴言、暴力という行為に出ることもあります。そのときに、周りの人が「攻撃された」と受け止めると、喧嘩になってさらなる二次トラウマになることがあります。周りの人が、「ああ、この人は今攻撃されたと感じて、ひたすら自分を守ろうとめちゃくちゃに反撃してきているんだな」と、冷静に捉える練習をすることが大事になってきます。このような対応のコツが症例を通して書かれていて、トラウマの人にどう接すればいいのか、すごくイメージしやすくなっています。
トラウマ体験に直接アプローチしない治療法として、周囲の人の関わりとしてもとても参考になる図書でした。