マインドフルネスについては、リワークデイケアの記事でも少し触れました。


先日、患者さんがマインドフルネスの研修会に参加してとても良かったと感想を話されていました。ただ、そこで教えてもらったマインドフルネスが、呼吸のマインドフルネスで、1日3分から5分ほど、じっと座って呼吸に集中し、雑念が湧いたらそっと横に置くといった方法でした。王道のマインドフルネスと思います。しかし、慣れてないとこの3分から5分ほど、ただ呼吸をして過ごすというのはけっこう大変だったりします。

この王道のマインドフルネスを日々やって見るのはとても価値があると思います。本当に、ただ呼吸に意識を向けるだけなのですが、その時間を3分程度もつことで、日常の認識が色々とかわってくると思います。

しかし、いわゆる王道のマインドフルネスをしないと、マインドフルネス体験が出来ないかと言われたら、そうではないと思います。マインドフルネスの技法は、日常のいろんな場面で実戦可能であると考えています。

マインドフルネスには3つの錨があると言われています。音、呼吸、身体感覚です。これらに意識を向けることで、日常の中でマインドフルネスを実践していけると思います。

マインドフルネスの目的の一つは、「今、ここ」に自分の意識を戻すことにあります。私たちの気持ちがしんどくなっているときは、意識が過去か未来に飛んでいることが多いのです。過去の辛かったことや嫌だったことを思いだしている、あるいは未来の不安や心配で心がいっぱいになっている、そのようなときに、私たちの気持ちはしんどくなります。ちなみに、未来の不安や心配も、過去の体験やこれまで見聞きしたことから派生していることがほとんどで、未来のことを考えて苦しくなっているときも、過去にとらわれているとも言えます。

そこで、過去や未来に飛んでいる思考を、「今、ここ」に戻すことで、心の平和を取り戻していくのです。「今、ここ」自体には、脅威も敵もないことがほとんどなのです。「今、ここ」のフラットな状態に自分を戻していくのに、3つの錨が役に立ちます。

まず、「音」ですが、これは、今聞こえてくる音に意識を向けることです。「目」に見えるもの(たとえば視界の景色や物体)は、自分で視線を動かしたり、目を閉じたりすることである程度コントロールできます。しかし、音は環境の中で自然に「やってくるもの」であり、避けたり止めたりしづらい刺激です。 コントロールしづらいものに対して、評価せずただ気づくという練習が、マインドフルネスの体験になると言えます。

また、音は常に「現在」にしか存在しません。過去の音も未来の音も実際には耳に届かず、今この瞬間の音だけが聞こえます。そのため、「今ここ」の体験に注意を向けるマインドフルネスの目的に適しています。

それから、音は目よりも評価や解釈が入りにくいとも言えます。視覚情報は瞬時に「あれは〇〇だ」「これは好き/嫌い」などの判断が起きやすいのに対し、音は「ただの音」としてとらえやすく、評価やストーリーが入りにくいため、 ただ観察するという態度を育てやすくなります。

多くのマインドフルネス実践では目を閉じたり、半眼にして視覚刺激を減らします。そのため、目を閉じて視覚情報を遮断することで、内的体験に意識が向きやすくなります。

同じことが、呼吸と身体感覚でも言えます。日常生活でマインドフルネスを体験したいならば、「音」に意識を向けて、今聞こえている音を感じること、「呼吸」に意識を向けて、今自分が息を吸って吐いていることを感じること、「身体感覚」に意識を向けて、「身体」が今何を感じているかを感じること、ほんの数十秒でもそのような時間をもつことで、「今、ここ」を意識できる練習になるのではないかと思います。