精神科医のつぶやき「当院は「協働」を推進しています|医師一人で出来ることは限られています」 (2025/06/30)
投稿者: furujinmachi
先日、というかだいぶ前に、諸外国の状況について書きました。
日本は諸外国と比べ、とにかく1日に診る患者さんの数が多いということ。これだけは医療制度を改革していただかないことにはなんともならないと思っています。ただ、制度はすぐには変わりません。今の制度の中で出来る工夫を色々と考えていく必要があります。
色々と考えた末、当院ではいろんなスタッフと「協働」していくことを推進してきました。現在の医療制度では、どうしても「医師」の権限が強く、「医師」にしか出来ないことがたくさんあります。なので、その部分は医師がやっていくしかないのです。
しかし、その制度上の問題に限らず、精神科/心療内科の医者は、患者さんを抱え込む傾向があるように思います。主治医にしか、その患者さんのことが分からない、という状況になっていることがけっこうあるように思うんですね。
私自身の経験で言うと、大学病院で勤務していたときに、外来で担当していた患者さんが入院されることがあったんですね。そうすると、看護師さんが患者さんのケアに入るようになります。そして、その患者さんが退院してまた通院をするようになるんですが、病棟に行ったときに、「あの患者さん、今こんな感じなのよ」と話をしたら、「お元気そうで良かったです」とか「ご家族とはうまくいってるんでしょうか?」とか、そういう話になって。それが、自分のメンタルヘルスの上ですごく大事で、誰か分かってくれる人がいて、相談できたり経過を報告できたりすると、それだけでもずいぶんとホッとするんですね。患者さんの話って、誰にでも出来ることではないです。医療機関は、秘密保持義務がありますから、患者さんの話は外では話せません。安心して相談したり話したり出来る相手って本当に少ないんですよ。ほぼ、同じ職場の人間しかいないと思います。そして、その患者さんについて、よく知ってくれている人がいると、なお相談しやすい。
そんな経験から、開業したときに、患者さんのことを医者しか知らないという状況はできるだけ作らないようにしよう、と決めました。心理師やソーシャルワーカーに面談してもらったり、看護師に事前の聞き取りに行ってもらったり、毎日最初に来院患者さんに関する申し送りをしたりして、情報共有するようにして、私以外にも誰かはこの患者さんのことを詳しく把握している、という状態にしました。そうすることで、患者さんも医者にしか相談できないのではなくて、他のスタッフに相談することも出来ます。私もスタッフも、患者さんを抱え込むのではなくて、みんなに相談して治療に当たれます。
あとは、業務効率の観点もあります。他のスタッフに情報収集を助けてもらうことで、私は困りごとの把握と、お薬の調整や対策を考えることに注力できます。できるだけたくさんの患者さんの相談に対応するために、役割分担して働くスタイルというのはとても大事になってくると思います。他の科ではすでにされている業務分担、多職種による協働については、精神科にも徐々に浸透してきたように思います。医師一人で出来ることは限られています。これからもスタッフに助けてもらいながら、診療を続けていきたいと思います。