精神科医のつぶやき「サイコシンセシスで学んだこと|サイコシンセシスを学んで まとめ」 (2025/06/23)
投稿者: furujinmachi
サイコシンセシスについて、少しずつ書いていき、とりあえず、書きたかったことを書けたように感じています。今まで書いたことを、まとめてみようと思います。
サイコシンセシスでは、人の意識領域の周りにある無意識をの領域を、大きく3つに分けています。下位無意識、中位無意識、上位無意識の3つです。
下位無意識は、自分のこれまでの人生での経験で感じたこと、考えたこと、思ったこと、いろんな記憶やエネルギーが抑圧されています。願望、欲望、行動力といった、とても強い、人としての根本的な生命エネルギーが溢れているエリアでもあります。
中位無意識は意識を中心として、今現在の意識に近いエリアで、何かきっかけがあればすぐ思い出せるような意識、現在の活動に直接関わっているエリアです。
上位無意識は、自分と他人を繋ぐような、集合無意識であったり、自分の人生の目的、自分の存在意義、自分が何に向かうべきかといった、人間を成長に導くエネルギーのエリアです。
従来のカウンセリングは、下位無意識と言われている、その人のトラウマの問題であったり、インナーチャイルドの問題であったり、その人の抱えている歪んだ信念だったりを、ケアしていくのが大きな目的であったと思います。サイコシンセシスも、下位無意識への対処はとても重要視しています。
しかし、実際、下位無意識へのアクセスはとても負担が大きいものです。そもそも、辛い体験であるからこそ、蓋をして、意識の奥深くに閉じ込めて、自分の意識に登ってこないように、無意識に抑圧しているエリアです。その蓋を開ける作業が簡単なはずもないし、楽しいはずもありません。
サイコシンセシスでは、その大変な作業を行うのに、上位無意識の力を借りることがあります。この視点が、他の心理療法にない視点かな、と思います。
上位無意識のエリアには、自分が望ましいと思う特性を強化するヒントがたくさんあります。そのエネルギーを拝借しながら、下位無意識のアクセスを進めていくイメージです。
何が必要かは、その人によって違います。純粋にエネルギーを必要とする人もいますし、リラックスできること、自分にパワーがあると信じること、愛情、忍耐力、意志の力、清明さ、いろんな要素を必要とすることがあります。今、たちまち健康であまり困っていない人でも、「もう少し自分を律せるといいなあ」とか「もう少し体力があるといいいなあ」とか「もう少し自己主張できるといいなあ」とか、そんなふうに思うこともありますよね。そういう時にも、上位無意識の力を借りて、イメージによって得たいものを取り入れるようにしていくことが可能です。
サイコシンセシスでは、下位無意識や中位無意識の理解のための方法の一つとして、サブパーソナリティワークというのをします。私たちはいろんな仮面をかぶって生活しています。それは、例えばオーケストラみたいなイメージでしょうか。たくさんの演奏家がいて、一つの曲を演奏しています。演奏家の一人一人がサブパーソナリティで、その指揮をしている人が、「セルフ」と呼ばれる、自己の中心的存在、ということになります。たくさんのサブパーソナリティがいても、「セルフ」が指揮をとってうまく調和が取れていると、特に大きな問題にはなりません。
ところが、サブパーソナリティが、「セルフ」が意図していないところで急に動き出すと、少し困る場合が出てくると思います。
実際、「なんであのとき、あんな風にしちゃったのかな」と思うことや、「いつもこのことがうまくいかないな」と感じているときには、想定していないサブパーソナリティが出てきてしまっていることがあると思います。適応的なサブパーソナリティも含めて、自分にどんなサブパーソナリティがあるか、少し考えてみましょう。
何か強い負の感情を感じているときは、サブパーソナリティが出てきていることが多いです。怒っているときや、悲しんでいるとき、落ち込んでいるとき、不安になっているとき。そして、その感情を何とかしようとして、何か行動を起こします。それがうまくいくといいのですが、あまりうまくいかないことも多く、かえって事態を悪化させてしまうこともあるのです。
サブパーソナリティは、だいたいが、子どもの頃の経験から形成されています。子どもの頃、辛かった体験をなんとかやり過ごそうとして、子どもなりになんとか振る舞い、そのときに学習したパターンがサブパーソナリティとなって、私たちの中に残ります。子どもの頃は、それでなんとか、そのしんどい状況を切り抜けていたのですが、大人になった今は、それは不必要だったり不適切だったりすることがあるんですね。でも、自分の中の子どもは、一生懸命そのパターンを繰り返して、頑張って自分を守ろうとしています。
なので、何かうまくいかないときに、「なんで自分ってこんなにダメなのかな」とか「自分って最悪だ」といった形で自分を責めるのではなく、「子ども時代の私が必死で頑張ってるんだ」「何が困って子ども時代の私がSOSを出してるんだろう?」と自分に問いかけてみるのが良さそうです。
サブパーソナリティと対話する方法はいくつかあります。サイコシンセシスで一番有名なのは「エンプティチェア」の技法だと思います。イメージの中で、椅子に座っている自分をイメージします。そして、向かいに椅子を用意し、そこに、自分のサブパーソナリティが座っていることをイメージします。そこで、二人で会話をします。そうして、そのパーソナリティに対する理解を深めるというやり方です。
このやり方は、少し心に負荷をかける方法で、トラウマの大きい方は気持ちのつらさが出てくる可能性があります。気持ちのつらさの強い人は、カウンセラーと一緒に取り組む方が良いかなと思います。
それより安全で取り組みやすい方法として、絵を描くというやり方があります。白い紙に大きな丸を書きます。そして、それを8等分する線を書きます。ピザとかケーキとかを切るような線ですね。そしたら、8個のおうぎ形が出来ます。そのそれぞれに、自分のサブパーソナリティをイメージする絵を描きます。それは、直感的なものでいいのです。綺麗に書こうとか思わなくて大丈夫です。ただ、自分のサブパーソナリティを象徴するような色、形、エネルギー、イメージをそこに書きます。書いてみて自分が何を感じたかを感じ取って下さい。
大切なのは、サブパーソナリティの存在に気づくことであって、サブパーソナリティを変えようとしたり消そうとしたりすることではありません。ダメな自分にダメ出しをするのではなく、「そばにいるよ」「大丈夫だよ」と自分の子ども時代の苦労をねぎらい、「どうするのがいいのか一緒に考えよう」というスタンスで、サブパーソナリティ達と対話していくようにできるといいのかなと思います。
同一化と脱同一化について。これもサイコシンセシスの主要な技法の一つです。サブパーソナリティとの対話の場合にも使える技法になります。
まず、同一化について。自分のサブパーソナリティや自分の一部に、しっかりと入り込む感じです。サブパーソナリティの感覚、感情、思考、意欲、そのようなものとしっかりと一体化します。そのサブパーソナリティの中で呼吸をして、その存在をしっかりと感じ取ります。同一化することで、何か気づくことがあるか、感じることがあるかを受け止めていきます。
それと、脱同一化ですが、これは、自分のサブパーソナリティから離れることです。ちょっと客観的になって、「あ、今、私のサブパーソナリティが出てきて何か訴えているぞ」と気づくことです。このような気づきを持てているときは、そのサブパーソナリティと距離を置けていて、脱同一化できていることになります。自分の精神機能のさまざまな部分にも、この脱同一化をすることが出来ます。
すごく悲しくなったり、不安になったりしているときも、「自分自身が悲しみなのではなく、今私は悲しみを持っている、悲しみという感情を持っている」と認識することで、悲しみと自分自身を分けることが可能になります。悲しみに同一化し、しっかりとその感情を感じて受け止めていく作業と、悲しみから脱同一化し、感情は自分の一部であって自分自身ではない、という認識を持つことは、どちらも大事です。同一化と脱同一化を、自分の意志で行えるようになったとき、私たちは自分のサブパーソナリティや自分の思考、感情、意欲などともっと上手に付き合えるようになっていきます。
サブパーソナリティや、自分の精神機能(思考、感情、意欲、イメージなど)をとりまとめている、指揮者の部分を、サイコシンセシスでは「セルフ」と呼びます。本来の自分、本当の自分ですね。自分が「セルフ」の状態でいられるとき、心は落ち着いていて、均衡の取れた状態になります。「セルフ」であるためには「意志」をもつことが重要になります。
「セルフ」の行うことは「選択」です。例えば、前回の「同一化」と「脱同一化」ですが、何かと同一化することも、そして脱同一化することも、「セルフ」が「選択」することができます。ただ、この「セルフ」に気づいていない状態では、サブパーソナリティに無意識に同一化しているため、「自分らしさ」から離れてしまい、苦痛やストレスを抱えるようになります。そのことに気づき、「選択」できる状態になると、「本来の自分らしさ」が戻り、生きる喜びや充足感が得られやすくなります。
なので、サブパーソナリティや自分のパーツに気づくことはとても大事です。気づいて、しっかり同一化して、そして脱同一化する。そのことを繰り返していくうちに、自分で、今の自分がどの「モード」でいるのか、どの「モード」でいたいのかをコントロールできるようになっていきます。
「セルフ」は「選択」をしていくというのが大事な役割になっていくのですが、この「選択」をするために重要なのが「意志」の力です。
サイコシンセシスでは、「意志」にはいくつかの側面があると説かれています。
代表的なものに「強い意志」「たくみな意志」「善い意志」が挙げられます。
「強い意志」というのが、通常私たちが「意志」という言葉に抱くイメージだと思います。「あの人は意志が強い」とかいった表現をしたりもしますよね。エネルギーや力強さの象徴でもあります。でも一方で、熟達することやコントロールすること、鍛錬することも意志の大事な側面で、「うまくやる」ことで、「より楽しく」欲求を満たすことにも、「意志」が役に立つのです。それが「たくみな意志」ということになります。集中力、決断力、持久力、自発性といった特性も、意志に関連しています。そうやってみると、「意志」という精神活動にいろんな特性があることが見えてきます。
サイコシンセシスでは、それぞれの意志を鍛えるための演習も紹介されています。
「強い意志」を強化するための演習としては、以下のようなことが推奨されています。
・毎日、ほんの少し、無駄なことをする。
・単純で、やさしい、小さなことを、正確に、規則的に、持続的にいくつも行う
・数日したら、課題を変えて同じように取り組む
・定期的な身体運動を行う
「たくみな意志」を鍛えるための演習は、エネルギーを最も節約できるような戦略を開発することになり、「強い意志」の演習とは少し異なります。でも、「強い意志」で力押しに何かを勧めるのではなく、「うまくエネルギーを使う」という考え方は、私はとても好きです。
「たくみな意志」を鍛えるのには、イメージをよく活用します。
・置換の技法:何かにとらわれてしまったときに、他のイメージを選び、注意をそちらに向ける練習をする
・心理的毒素から注意をそらす:心理的にエネルギーを落としてしまうような、攻撃性・暴力・恐れ・うつ・落胆・貪欲の感情や意欲が出てきたときに、他のイメージを思い浮かべることで、注意をそらす練習をする
・望ましいイメージを喚起する:自分の望んだ状態が達成されているところをイメージし、そのように振る舞ってみる
ただ、どのような意志も、その目的が「善いもの」でなければ、自分自身と周囲、自然と調和することが難しくなっていきます。自分が成し遂げようとしていることが、他の人々の幸福と矛盾しないような目標を選ぶことが大事になってきます。それが「善い意志」と呼ばれる部分になります。常に、自分と周り、環境との調和にも目を向けるようになっていくと、自己実現をしていく中で、充足感を感じていけるようになると思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。