精神科医のつぶやき「社会復帰が難しい背景について|メンタルヘルス不調の方の社会復帰について その3」 (2025/06/04)
投稿者: furujinmachi
10月の講演会の準備です。以前は講演会の準備、少々めんどくさいと思いながら、診療の合間にコツコツとやってたんですが、今はその過程もnoteの記事になると思うと、モチベが上がります。
何かを作るときに、できあがった作品を評価するのではなくて、その過程も知ってもらうことって、けっこういいのかなと思います。作る方も、過程を提示することで、完成までのモチベになりますし、見る方も、できあがっていく過程を見るのも楽しかったりしますよね。個人的にはリフォームとかDIYとかの動画も見ていて面白いと思うので、他人が何かを作っていく過程を見させてもらって共有することも、それを好ましいとか楽しいとか思う人もいるんですよね。
ちょっと無駄話になりました。さて、講演会の資料作成の続きです。
今日は、社会復帰が難しい背景についてまとめていきたいと思います。
・職場の理解不足
・自信喪失、孤立
・再発への不安
・制度の谷間、支援体制の難しさ
職場の理解不足について。これには大きく2つの方向性があると思います。
まずは、「復帰したならもう大丈夫でしょ?」という誤解についてです。
・メンタルヘルス不調=風邪のような一過性のものという誤った認識
・復職をゴールとする就業規則や復帰プログラムの構造:一度「OK」が出たら、通常通り働けるはずという扱いになりがち
・可視化できない症状への無関心:「元気そうに見える」「普通に話せてるのに、なぜ配慮が必要なのか」といった見た目依存の判断
このような誤解が職場にあると、結果として以下のようなことが起きます。
・本人が本当はまだしんどいのに言えなくなる:状態の波を出せず、悪化リスクが高まる
・周囲が配慮や調整を途中でやめてしまう:「もう普通に戻ってるんでしょ?」という空気感
・再発や再休職につながりやすくなる
あとは、メンタル不調そのものへの過剰な心配や、本質的な理解がなされていない場合ですね。
・形だけの配慮にとどまることが多い:形式的な勤務制限や時短対応はあっても、業務内容や人間関係の調整は不十分なまま。
・「一度休んだ人」へのレッテル:「また休むのではないか」「責任ある仕事は任せにくい」といった偏見や不安が根強く、本人の居場所がなくなることも。
・管理職や同僚の心理的負担:「どこまで踏み込んでよいか分からない」「腫れ物に触るようになってしまう」という声も多い。
制度的には復職可能でも、職場文化や風土が変わらなければ「本当の意味での復帰」にはなりにくい、と言えそうです。
それから、本人の自信喪失、孤立という問題点。
・病気の影響だけでなく、職場や社会との接点を失うこと自体が大きな打撃:「自分にはもう働く力がないのでは」「また迷惑をかけるのでは」という思考に陥りやすい。
・回復に時間がかかる過程で、社会的役割の喪失感が強まる:特に責任感が強かった人ほど、アイデンティティの喪失が深刻。
・孤立が悪循環を生む:周囲との関係が希薄になり、相談もしづらくなって、さらに不安や無力感が増す。
「病気が良くなった」ことと、「元の役割を担える自信」を取り戻すことは別のプロセスである、ということを認識していただく必要が出てきます。
再発への不安も、大きな懸念材料です。
・過去の経験がトラウマに近い形で残る:「あの時のように、また調子が悪くなってしまうのでは」という強い恐怖。
・再発リスクへの過度な意識が、復職へのブレーキになる:ある種の「自己保身的適応」であり、回避傾向が強まる。
・支援者や医療者も慎重になりすぎる場合がある:本人の不安を尊重するあまり、復帰のチャンスを後ろ倒しにしてしまうことも。
「再発しないこと」をゴールにすると、動けなくなってしまいます。 小さな成功体験を積み重ねる支援が必要になります。
最期に、 制度の谷間、支援体制の難しさについて。
・「医療」と「職場」をつなぐ仕組みが弱い:医師の診断書や意見書だけでは不十分。職場との対話や調整が必要だが、それを担う人材や制度が少ない。
・リワーク等の支援制度が限定的:地域格差が大きく、制度に乗れない人も多い。
・障害者雇用制度とのはざま:発症時期や診断名によっては福祉制度にうまく乗れない。精神疾患特有の「見えにくさ」がネックに。
医療・福祉・職場・本人をつなぐ「中間支援」が弱い社会では、社会復帰は「自己責任」に陥りやすい、と言えそうです。
だいたいこんなところでしょうか。また少しずつまとめていきます。