精神科医のつぶやき「カウンセリングだけでは治療が難しい場合もあります|お薬も上手に使いたい」 (2025/05/16)
投稿者: furujinmachi
私は元々カウンセラーになりたいと思っていたのですが、医学部に入学できたため、精神科医になりました。元々カウンセラー志望だったこともあり、医者になってからも心理療法のほうが勉強していて面白いと感じることが多いです。
しかし、せっかく医者になったならば、医者でなければ出来ないことも頑張りたい。医師でなければ出来ないことの一つが、お薬を出すことだと思います。
大学時代に薬理学の授業がありましたが、私は薬理学がけっこう好きで、一生懸命勉強しました。その流れで、医者になってからも、新しい薬が販売になると、どんな作用機序のどういう薬なのかを知ることに興味が強いです。
薬物の開発というのは本当にすごくて、私が医者になってからこの25年の間、精神科の薬は大きく変わりました。より効果が早く、より副作用が少なく、安全な薬が増えていきました。
当院には常勤の公認心理師がいて、認知行動療法やカウンセリングをしています。私自身も公認心理師の資格を持っていて、日々心理療法の勉強をしております。認知行動療法も実施できます。そのような特徴のある診療所のため、「できれば薬を使いたくない、カウンセリングだけで治してほしい」という希望の方も来られます。
しかし、実際にはそれはかなり難しい場合があります(そしてなぜか、カウンセリングだけでは難しい人ほど、カウンセリングだけで治したいと希望される傾向があります)。その方の病気の種類によっては、薬物治療を行わずに治療をするのは現実的ではない、と判断せざるを得ないというか。例えば、高熱を出している人がいて、それを本人の治癒力を高めることだけでなんとか治してほしいと言われたら、高熱の原因とその方の体力によっては、可能な場合もあるかもしれませんが、高熱を放置することで非常に危険に晒されることになると思うんですよね。それと同じで、まずは今の精神的苦痛・苦しみをお薬で緩和しないことには、カウンセリングに取り組むことすら難しい場合があります。
あと、カウンセリングでの治療は、時間がかかることが多いです。コツコツと行う、筋トレのようなもので、成果を感じるのにある程度の時間を要します。なので、苦痛感があまりにも強いと、カウンセリングでの成果が出るのが待てない時もあると思います。
また、薬物治療で改善する症状と、カウンセリングや心理療法で改善する部分は異なります。それぞれの治療で、どの部分を治療し、どの部分を補うのか。その見立てが重要になってきます。
あとは、薬物治療の中でも、「漢方薬」という選択肢もあります。漢方薬でも、精神症状に効くものがいくつかあります。西洋医学的な安定剤、向精神薬に抵抗のある方でも、漢方薬なら飲んでもいい、という方がいらっしゃいます。なので、漢方薬も上手に利用しながら薬物治療を行うと、選択肢が広がり対応できる幅が広がります。
知識のブラッシュアップが大変ではありますが、精神科のお薬はまだまだ新しいものも開発されています。新しいお薬の知識も集めながら、心理療法との組み合わせも考えながら、漢方薬に対する知識も広げていきたいと、欲張ったことを日々考えています。