精神科医のつぶやき「復職の基準って難しい|メンタル不調の復帰 その2」 (2025/05/13)
投稿者: furujinmachi
前回、メンタル不調で復職するに当たって、一番良いパターンは、メンタル不調がすっかり良くなって復帰するパターンだと書きました。そして、メンタル不調が改善したとする基準についても触れました。
しかし、問題になるのは、理想的なパターンだけではなく、すっかり良くなったわけではないけれども復帰しなければならない、という場合ですよね。
前回、復帰のパターンとして次の3つをあげました。
①十分メンタル不調が回復し、本人が意欲的に復帰する
②これ以上休めないので復帰する
③これ以上休んでも状態の改善が期待できないため一旦復帰する
②のケース。これは経済的な事情もかなり影響してきます。職場の規定でこれ以上休めない、休むと退職になる場合とか、傷病手当金をもらってきたけれども、受給できる期限を迎えてしまう、とかですね。
経済的に危機を迎えること自体が、うつ状態をさらに悪化させるリスクを伴います。コロナ禍でうつになる方が増えた、との報告がありますが、その一因として経済的に困窮した方が増えたからだ、とも言われています。なので、経済的な安定を得るメリットの方が、十分回復していない状態で復職するリスクを上回る場合は、復帰に踏み切ることがあります。
また、③の場合というのは、休業期間が長くなってきた方で、長期間休んでいるということ自体が、メンタル不調の原因になってしまってきているような場合です。うつ病は、急性期は休養が重要ですが、長期化して慢性化するとむしろ活動した方が良くなる場合があります。低活動であることでうつが遷延している場合は、いっそ復帰した方がいい場合があったりします。もちろん、可能であればその前にリワークデイケアや試し出勤など、リハビリが出来ると理想です。
いずれにせよ、②や③のパターンで復職を成功させるためには、周囲の支援が欠かせません。職場が、どのくらい患者さんのことを理解しサポートしてくれるのか、プライベートで、ご家族含めどのくらい支援が期待できるのか。支援が多いほど、復職が成功する可能性が高まります。
職場がメンタル不調に理解があって、試し出勤制度を利用できたり、本人の心理的負担が少ないように異動の調整、勤務時間の調整などしてくださると非常にありがたいです。働きやすくなりますし、それだけ配慮してもらえることに対して、(遠慮してしまう気持ちもありますが)正直嬉しい気持ちを患者さんも感じられます。
ただ、状況的にはまだ休むことが可能なのに、「職場に迷惑をかけている」といった罪悪感や、「あまり休むと二度と仕事に行けなくなるのではないか」といった不安・焦りから復職を希望される方もいます。職場から「早く復帰してほしい」と急かされる、と訴える方もいます。しかし、「職場から早く復帰しろと言われる」と話される方でも、よく聞くと、確かに職場の人は「いつくらいで復帰できそうですか?」と尋ねてこられていますが、事実確認であって急かしているわけではない、ということもままあります。本人の焦りや不安が「急かされている」という受け止め方に繋がる場合もあります。
正直、焦って復帰すると、復帰後にかなりしんどい思いをされ、結果、数ヶ月後に再び復職になるパターンが結構あります。休むことが可能であるならば、認知機能の改善が得られ、集中力や意欲が回復するところまで待って、リハビリを経て復職するのが理想と考えています。