10月に3本の講演会を抱え、少しずつ準備を開始しております。

まず冒頭の、「治ったのに働けない」問題について。
これは、うつを含むメンタルヘルス不調全般にいえることじゃないかと思うのですが、メンタルの症状は、全部一変に改善するのではなく、比較的回復が早い症状と、回復が遅い症状があるんですね。
たとえば、不安感や気持ちの落ち込みといった、気分面の症状は、割と早くに回復してきてくれたり、お薬がよく効いてくれたりします。
しかし、意欲面だったり、認知機能の面で、回復が遅れることが良くあります。なので、気分は良くなってきたのに、何か活動しようとすると動けない、ということが起こったりします。

しかし、そのことをご存じなく、診察でも「(気分は)良くなった」という風に話をされますと、医者の方は「改善した」と判断します。そして、「では復職しましょう」という流れになる可能性があります。実際、意欲や認知機能が回復していないと、職場にいってもパフォーマンスが戻らない、働くことがつらい、すぐ疲れるといった困りごとが生じるようになります。

特に、下記のような認知機能低下については、長引くことが多いです。
・集中力の持続:数分で切れる、注意が飛ぶ
・記憶力の低下:会話や指示をすぐに忘れる
・判断力の低下:業務の優先順位がつけられない
・処理速度の低下:作業に極端に時間がかかる
・マルチタスク処理の困難:複数の仕事を同時にこなせない

実際の職場復帰ではこれらの「業務に必要な認知機能が戻っているか」が非常に重要です。しかし、この認知機能の面は、気分の回復と比べて見えにくく、捉えにくいところがあります。

そして、この認知機能が十分改善していないのに復帰した場合に、「会社に戻ってみたが、全然うまく働けず、再休職」という場合が出てきたりします。
なぜそのような状況になるのかについては、以下の2点が考えられます。
・脳のエネルギー回復や神経ネットワークの再構築には時間がかかる
・「会社に戻った時点」で社会的ストレスが再び加わると、脆弱な認知機能が再び破綻しやすい

しかし、主治医から復帰許可が出て、復帰されてきた人に対して、一般的に社会や職場の方は、以下のように考えると思います。
・「もう薬も減ってきたし、元気そうだから大丈夫でしょ?」
・「病気が治ったなら、すぐ普通に働けるはず」

これはある意味、病気か、健康か、といった線引きのはっきりした「健康/病気」の二分法的な見方になるんですが、その考え方がメンタルヘルス不調の現実とは乖離しています。

実際には、以下のような病気と健康の間くらいの状態はよくあることです。
・「心身のパフォーマンスがまだ不安定」
・「午前中だけは大丈夫だが、午後からがしんどい」
・「週5はまだ無理。週3〜4日からなら…」
そのため、回復には段階的な支援や職場の理解が不可欠になってきます。

結局のところ、メンタルヘルス不調の方の社会復帰の問題点は、
・早期復職→再休職の悪循環
・「甘えている」「怠けている」といった誤解
・患者自身も「元に戻れない自分」を責めてしまう
といったところになるかと思います。

また少しずつまとめていこうと思います。