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30 June 2025 の投稿一覧です。
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投稿者: furujinmachi

昨日、記念すべき100号になる香川県精神保健福祉協会の機関誌「香川精神保健」に原稿を書くことになった件について書きました。


私が医者になったのが2000年です。そのあと精神医療界で何があったか、それから私自身に何が起きたか時系列で並べてみました。

2000年
精神科はまだ「精神分裂病」や「定型抗精神病薬」が主流。
院内処方が多く、薬局との連携も限定的。

2002年
「精神分裂病」→「統合失調症」へ病名変更(偏見緩和と早期介入促進)。
精神保健福祉法が改正され、名称も「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」に。
精神医療における「説明と同意」「権利擁護」への関心が高まり始める。

2003年10月
香川医科大学と香川大学が統合し、新たに香川大学として発足。

2003年〜2004年
非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピンなど)の使用が広がる。
抗うつ薬としてSSRIが本格的に普及(パロキセチン、フルボキサミンなど)。

2024年12月
私自身が大学院卒業。

2005年
発達障害者支援法施行。小児領域中心だった発達障害が精神科外来でも注目される。
医療観察法施行。重大事件を起こした精神障害者の治療と社会復帰の枠組み整備。

2005年4月〜7月
香川大学医学部精神神経医学講座の教授の交代。

2025年8月
私自身が、大学から転勤して精神科病院勤務。

2006年
自立支援医療(精神通院)制度開始:自己負担1割、公費負担の仕組みが一元化。
精神科外来通院の継続性・アクセスが大きく改善。
「障害者自立支援法」施行。福祉サービスの利用が制度的に整備。

2007年4月
私自身が、香川大学医学部附属病院勤務に戻る

2007年〜2009年
メンタルクリニックが都市部で急増。軽症・ストレス疾患の受診が増加。
「うつ病は心の風邪」から「うつ病は誰でもなる」へと、社会的認知が広がる。

2010年頃
抗うつ薬の多剤併用が社会問題に(「ポリファーマシー」への反省)。
自殺総合対策大綱策定(2010年)→自殺者数が減少。

2013年〜2014年
「障害者総合支援法」施行(2013年)。
長期入院患者の地域移行・退院支援が制度的に推進される。

2016年
私自身が、古新町こころの診療所開業。

2017年
公認心理師制度開始(第1回国家試験)。
精神科医療における心理職の役割が明確化、チーム医療の強化。

2020年
新型コロナウイルス感染症拡大
うつ、不安、孤立などのメンタルヘルス不調が社会全体で増加。
オンライン診療が特例的に導入・拡大。

2023年〜2024年
精神科病床の縮小方針が明確化。社会的入院の解消と地域支援へシフト。
精神医療のアウトリーチ(訪問看護、ACT)の活発化。

2025年
精神科診療は多様化と細分化へ:発達障害、依存症など専門性が求められる時代。
新規抗うつ薬、非定型抗精神病薬が主流となり、個別化・副作用マネジメントが重要課題に。
精神科医は薬物療法だけでなく、診断・支援・地域連携を含めた統合的役割を担うように。

2000年以降の精神科は、「偏見からの脱却」「地域へ」「多職種・多角的支援へ」という大きな潮流の中にあったと言えそうです。ここまで必死に働いてきましたが、社会的にも大きな変革の中で働いてきたんだな、と感じます。これらをまとめて記事にしていきたいと思います。
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投稿者: furujinmachi

香川県には香川県精神保健福祉協会という機関があり、私の所属する古新町こころの診療所もその協会員になっています。そしてその中でも私は広報委員になっています。広報委員は毎年2回発行される機関誌「香川精神保健」の内容について相談し、原稿の依頼をしたりといった業務を担当しています。委員は数名いて、持ち回りで機関誌の主担当者になるんですが、今回は私が主担当の回です。そしてなんと、今回は、機関誌が第100号になるという記念号です。

なので、いつもよりちょっと豪華版にして、各病院/診療所の理事長・院長先生に、「香川県の精神保健のこれまでとこれから」という内容で、思いの丈を執筆いただく、という企画にすることが決定しました。

これから、各病院/診療所の先生に執筆の可否をお伺いし、書いていただける先生からは原稿をいただいて、内容を査読し、校正する作業に入っていきます。事務手続きは事務員さんがテキパキとして下さるので、私の仕事は査読校正の部分と、あと私自身も診療所の理事長ですので、自分が記事を書かなければなりません。

前半でこれまでを振り返り、後半でこれからの話を書くのですが、とはいえ香川県精神保健の重鎮達の中で考えると私なんかは若手も若手なんで、これまでを多く語るのははばかられる感じですね。これまでよりこれからにウエイトを置いて書くようにしてもいいのかなと思ったり。

私は香川県以外で働いたことがないので、香川県の特徴が何かと言われると難しいところもあります。ただ、自分がこれまでに働いてきて感じたことや思ったことのうち、この地域ならではと思われることに関しては積極的に取り上げてもいいのかなと思います。県民性だったり、そういうところで感じることがあればそれも書いてもいいのかもしれません。これからの展望に関しても、この地域ならではの問題点やそこから考えられる今後の対策などの話が出来たらいいようにも思います。

まずは、私が医者になってから、これまでの医療界での変化、特に精神科を中心とした変革点と、私自身の勤務先の変更、就労環境の変化などを時系列にして、それを元に感じたことや考えたことを書きたいと思います。その後に、今後の展望として、社会全般的に見た心配している点や期待している点、自分自身・診療所として頑張っていこうと考えている点などを書きたいと思っています。

出来事の時系列はchatGPTが助けてくれるので助かりますね。あとはそれを手がかりに、自分の記憶を思い出して書いてみようと思います。
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投稿者: furujinmachi

この本も再読なのですが、とにかく昨今のトラウマ対応の重要性を踏まえ復習しようと思いました。

対人関係療法でなおす トラウマ・PTSD:問題と障害の正しい理解から対処法、接し方のポイントまで
amzn.asia
1,650円

読みたいと思った動機
まず、トラウマ・PTSDについてきちんと知識を持ち、正しく対処できるようになりたいということ。このシリーズは、何をするべきかがはっきり提示されているので、とても参考になります。

得たい知識
トラウマ・PTSDに対する正しい知識。そして正しい対応、治療法。
忙しい臨床の中でも使えそうなものがあればそれも知りたい。

対人関係療法でトラウマケアをする最大の特徴は、他のトラウマケアと違って、トラウマそのものにはあまりアプローチしない、という点だと思います。トラウマを思い出したり、トラウマに対する処理を何かする、ということは原則しません。トラウマを受けた結果として、今何が起こっているのかを理解し、周囲の人にも理解してもらうことを一番重視しています。そして、本人が少しでも安心していられるように、どう対処したらいいのか、それを話し合って考えていくというのが治療になっていくと言えると思います。

対人関係療法全般で言えることだと思うのですが、心理教育をけっこうしっかりやるんですよね、そして本人や周囲が困っていることが、本人の「性格」なのか、病気の「症状」なのかをきっちり分けていく、という作業を丁寧にやります。きちんと見ると、困りごとの多くは「性格」ではなく「症状」だということが分かります。

トラウマ反応で多いのは、解離と過剰反応です。解離すると、本来感じるべき感情を感じずに、記憶すら曖昧になってしまいます。これは、辛かった出来事を乗り切るために本能的に脳が対処していることで、本人は何も悪くありません。解離をよく起こす人は、感情を感じにくくすることでストレスを乗り切ろうとしていて、大きなトラウマ体験の時にはそれがもちろん有効な対処法なのですが、平時の時に解離ばかりしているとおかしなことになってきます。楽しみや喜びなどポジティブな感情も感じられなくなったり、日常のことをあまり覚えていなくて、生活の支障が出たりします。その場合には、解離したときに、本当は何を感じていたのかを考える練習をしていく必要が出てきます。治療者の方から、「こういうときは腹が立ったりすることが多いですね」「そういうときには悲しくなるのが一般的です」といった提案をして、本人が自分の感情に気づけるようサポートすることもあります。

過剰反応の人の場合は、何か自分が「危険」と感じる出来事に遭遇すると、すごく攻撃的になったりします。自分へ攻撃性が向いて自傷行為になることもありますし、周りに攻撃性が向いて暴言、暴力という行為に出ることもあります。そのときに、周りの人が「攻撃された」と受け止めると、喧嘩になってさらなる二次トラウマになることがあります。周りの人が、「ああ、この人は今攻撃されたと感じて、ひたすら自分を守ろうとめちゃくちゃに反撃してきているんだな」と、冷静に捉える練習をすることが大事になってきます。このような対応のコツが症例を通して書かれていて、トラウマの人にどう接すればいいのか、すごくイメージしやすくなっています。

トラウマ体験に直接アプローチしない治療法として、周囲の人の関わりとしてもとても参考になる図書でした。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

マインドフルネスについては、リワークデイケアの記事でも少し触れました。


先日、患者さんがマインドフルネスの研修会に参加してとても良かったと感想を話されていました。ただ、そこで教えてもらったマインドフルネスが、呼吸のマインドフルネスで、1日3分から5分ほど、じっと座って呼吸に集中し、雑念が湧いたらそっと横に置くといった方法でした。王道のマインドフルネスと思います。しかし、慣れてないとこの3分から5分ほど、ただ呼吸をして過ごすというのはけっこう大変だったりします。

この王道のマインドフルネスを日々やって見るのはとても価値があると思います。本当に、ただ呼吸に意識を向けるだけなのですが、その時間を3分程度もつことで、日常の認識が色々とかわってくると思います。

しかし、いわゆる王道のマインドフルネスをしないと、マインドフルネス体験が出来ないかと言われたら、そうではないと思います。マインドフルネスの技法は、日常のいろんな場面で実戦可能であると考えています。

マインドフルネスには3つの錨があると言われています。音、呼吸、身体感覚です。これらに意識を向けることで、日常の中でマインドフルネスを実践していけると思います。

マインドフルネスの目的の一つは、「今、ここ」に自分の意識を戻すことにあります。私たちの気持ちがしんどくなっているときは、意識が過去か未来に飛んでいることが多いのです。過去の辛かったことや嫌だったことを思いだしている、あるいは未来の不安や心配で心がいっぱいになっている、そのようなときに、私たちの気持ちはしんどくなります。ちなみに、未来の不安や心配も、過去の体験やこれまで見聞きしたことから派生していることがほとんどで、未来のことを考えて苦しくなっているときも、過去にとらわれているとも言えます。

そこで、過去や未来に飛んでいる思考を、「今、ここ」に戻すことで、心の平和を取り戻していくのです。「今、ここ」自体には、脅威も敵もないことがほとんどなのです。「今、ここ」のフラットな状態に自分を戻していくのに、3つの錨が役に立ちます。

まず、「音」ですが、これは、今聞こえてくる音に意識を向けることです。「目」に見えるもの(たとえば視界の景色や物体)は、自分で視線を動かしたり、目を閉じたりすることである程度コントロールできます。しかし、音は環境の中で自然に「やってくるもの」であり、避けたり止めたりしづらい刺激です。 コントロールしづらいものに対して、評価せずただ気づくという練習が、マインドフルネスの体験になると言えます。

また、音は常に「現在」にしか存在しません。過去の音も未来の音も実際には耳に届かず、今この瞬間の音だけが聞こえます。そのため、「今ここ」の体験に注意を向けるマインドフルネスの目的に適しています。

それから、音は目よりも評価や解釈が入りにくいとも言えます。視覚情報は瞬時に「あれは〇〇だ」「これは好き/嫌い」などの判断が起きやすいのに対し、音は「ただの音」としてとらえやすく、評価やストーリーが入りにくいため、 ただ観察するという態度を育てやすくなります。

多くのマインドフルネス実践では目を閉じたり、半眼にして視覚刺激を減らします。そのため、目を閉じて視覚情報を遮断することで、内的体験に意識が向きやすくなります。

同じことが、呼吸と身体感覚でも言えます。日常生活でマインドフルネスを体験したいならば、「音」に意識を向けて、今聞こえている音を感じること、「呼吸」に意識を向けて、今自分が息を吸って吐いていることを感じること、「身体感覚」に意識を向けて、「身体」が今何を感じているかを感じること、ほんの数十秒でもそのような時間をもつことで、「今、ここ」を意識できる練習になるのではないかと思います。
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投稿者: furujinmachi

解離性障害という病気は、なかなかお薬だけでは改善せず、これまでは精神分析療法のような、強力な精神療法が必要なイメージでした。ところが新しい治療法が試みられていると聞き、図書を購入。購入日は2020年になってました。またもや寝かせ過ぎ。でも貯めていた本を読み進めていけているので、よしとしてます。

USPT入門 解離性障害の新しい治療法 -タッピングによる潜在意識下人格の統合-
amzn.asia
1,980円

読みたいと思った動機
自分が苦手と思っていても、そんなことは患者さんには関係ありません。トラウマを抱える人が増えている中で、解離性障害に困っている人も確実に増えています。新しい治療法を身につけて、対応できるようにしたいと思いました。

得たい知識
ここで紹介されている治療法が、日々の臨床で実践できそうなのか?あるいはうちのスタッフに手伝ってもらってでも実施可能かどうかが知りたい。

この本は薄くて読みやすく、最後は症例も提示されてイメージしやすかったのですが、かなり思い切った内容もあり、同業者として、よくここまで開示されたな、というのが正直な感想です。

でも、どのような批判や非難を受けても、有効な治療を生み出し、そしてそれを広め、困っている患者さんを助けたいという、著者の熱い気持ちを感じました。同業者として頭が下がる思いです。

難しい解離性障害の治療を、できるだけ簡易に行いたいという意図で作られた治療法でしたが、それでも時間を取られるのは事実で、一般診療の合間で実施するのは難しそうであり、また独特の技法のため、エッセンスを日々の臨床に活かすというのは少し難しいように感じました。

ただ、著者の先生が今年の日本精神神経学会学術総会でシンポジウムもされているようでしたので、そちらも視聴して(最近は学術総会もオンデマンド視聴が出来て、地方在住者にはめちゃくちゃありがたいです)、知識は得ていきたいと思います。新しい治療法がどんどん開発され、当院でも提供可能なものが出てくることを期待し、常に知識のブラッシュアップは続けていきたいと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

すでにどこかの精神科/心療内科に通院中の方が、転院を希望して来られることがあります。その場合は、紹介状をいただくようお願いしています。
転居など妥当な理由で転院する場合はスムーズに紹介状をいただけるのですが、転院先を変更したい場合には、紹介状をいただくのにハードルが高い場合がありますね。患者さんから難色を示されることもあります。これもよく分かります。何かしら、別の病院にかわりたいと思ったときに、そのことを主治医に伝え、紹介状をいただくというのは、お願いしづらくて当然と思います。

しかし、それでも紹介状をいただきたいんですよね。

紹介状をいただきたい理由は、一つには情報を得たいということがあります。
これまでせっかく治療を受けてこられて、それが一からやり直しになるのはあまりにも勿体ない場合があります。特に知りたいのは以下のような情報ですね。
①前の主治医の先生のみたて
②薬物治療の経緯
③手帳や年金など公的サービスの利用状況
薬物治療はお薬手帳があれば直近のことは分かりますが、紹介状をお願いすると、今までどんな薬を試して有効だったか、無効だったか、副作用が出た薬があったかなどさらに詳細な情報がいただける場合があり、大変助かります。公的サービスについても、患者さんが初診の時に話し忘れており、更新直前になって申し出があって非常に慌てることもあります。

あとは、転院するということを前の主治医の先生に知っていただくという意図もあります。

転院は患者さんの自由ではありますが、しばらく通院していた患者さんが来なくなったときに、どうしたのかな?と考えることがあります。転院したなら、転院したと知っておきたいと思うんですね。

また、主治医の先生との行き違いで転院を希望されるときに、転院したいことを話し合うことで、誤解が解け再度通院を継続できる場合もあると思います。精神科/心療内科の治療は、どうしても長くなってしまうことがあります。その病院/クリニックが悪くて治らないのではなく、病気の性質上仕方ないこともあり、よくならないからといって転院することが、必ずしもいいとは限らないこともあるのです。

なので、転院したいということを主治医の先生にお伝えしてから、転院してきていただきたいなと思ってます。ただ、お願いしても紹介状を作成してもらえなかったという場合がたまにあり、その場合は紹介状なしで対応することにして、どのような事情なのか確認させてもらっています。お話を聞くとやむを得ないと納得できることもあったりしますので。なのでケースバイケースですが、可能な限りはお願いするというスタンスでこれからも行きたいと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

これもしばらく寝かせていた本です。だいぶ貯めていた本を読み進められています。とにかく不登校の相談が増え、なんとか対応したいと思い購入しました。これも前回の本と同じで2021年の購入です。この頃に読みたいと思って何冊か買って、そのまま本棚で眠っていた本たちですね。発掘できただけよしとしましょう。

不登校支援の手引き―児童精神科の現場から
amzn.asia
3,080円

読みたいと思った動機
不登校の患者さんに、もっと役に立てるようになりたいと思ったから。

得たい知識
不登校の診たて、支援の中でも、医療機関としてできることは何か知りたい。また、今相談に来られている患者さんに役に立つ知識が得たい。

この本は、正直、とても良かったです。不登校の方を対応する医療機関の人はすごく勉強になると思います。早く読めば良かったと悔やむレベル。

まず、不登校の長期経過について。不登校を経験した子どものうち、7〜8割は、成人後の社会適応が良好だという統計結果が紹介されています。これってすごく大事な知識だと思うんですね。お子さんが不登校になって、親は、子ども達がそのまま引きこもりになってしまうことを一番心配されていると思うんです。でも実際そんなことはなくて、そのまま引きこもりになる子の方が少ないという事実があるということです。この数字は当院で診させてもらっている子ども達の状況ともほぼ一致していると思います。もちろん、中には残念ながら重篤な精神疾患を抱え、社会復帰が難しくなる子もいます。それは、発熱で内科に行ったときに、単に風邪引きで数日で回復する子どももいれば、もっと重症な病気の始まりが発熱だった場合もあると思うんですね。ただ、思ったよりもみんな社会復帰している、という事実は知っていただきたい。

それと、診療担当する医療グループは、子どもの評価、学校環境の評価、家庭環境の評価という視点をもつ必要があります。これは子どもを診る上では、必須の視点ですね。どれか一つだけが原因ということはありませんが、どのような状況で、どこのウエイトが重いか、そしてどこの部分からが介入しやすいか。そのあたりを評価していく必要があると思います。

それから、再登校の大変さについては、もっとしっかり認知してもらえた方がよさそうです。不登校の予後は良いとは言え、いろんな理由で学校に行けなくなった子ども達が、再び学校に行くようになるのは思ったより大変だという認識も大事です。そして、「支援の目標は再登校ではない」ということも、共通認識としてもっておく必要があると思うんですね。支援の最終目標は社会復帰であって、不登校になった学校に戻ることではない。いろんなルートで大人になっても良いという視点は大事です。

とはいえ、再登校にせよ社会復帰にせよ、不登校ないしは引きこもりの状態から徐々にステップアップする必要はあります。支援とは、そのステップアップを支えることでもあり、まず最初の段階を試して、「これでは物足りないかな」位になったら次のステップに進む。子どもが新しいステージに慣れ、次にステップアップするまでのエネルギーが溜まるのには、大人が思うよりも時間がかかることを認識し、焦らさないことが大事になります。

不登校支援で大事なことをたくさん書いて下さっていました。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

先日、というかだいぶ前に、諸外国の状況について書きました。


日本は諸外国と比べ、とにかく1日に診る患者さんの数が多いということ。これだけは医療制度を改革していただかないことにはなんともならないと思っています。ただ、制度はすぐには変わりません。今の制度の中で出来る工夫を色々と考えていく必要があります。

色々と考えた末、当院ではいろんなスタッフと「協働」していくことを推進してきました。現在の医療制度では、どうしても「医師」の権限が強く、「医師」にしか出来ないことがたくさんあります。なので、その部分は医師がやっていくしかないのです。

しかし、その制度上の問題に限らず、精神科/心療内科の医者は、患者さんを抱え込む傾向があるように思います。主治医にしか、その患者さんのことが分からない、という状況になっていることがけっこうあるように思うんですね。

私自身の経験で言うと、大学病院で勤務していたときに、外来で担当していた患者さんが入院されることがあったんですね。そうすると、看護師さんが患者さんのケアに入るようになります。そして、その患者さんが退院してまた通院をするようになるんですが、病棟に行ったときに、「あの患者さん、今こんな感じなのよ」と話をしたら、「お元気そうで良かったです」とか「ご家族とはうまくいってるんでしょうか?」とか、そういう話になって。それが、自分のメンタルヘルスの上ですごく大事で、誰か分かってくれる人がいて、相談できたり経過を報告できたりすると、それだけでもずいぶんとホッとするんですね。患者さんの話って、誰にでも出来ることではないです。医療機関は、秘密保持義務がありますから、患者さんの話は外では話せません。安心して相談したり話したり出来る相手って本当に少ないんですよ。ほぼ、同じ職場の人間しかいないと思います。そして、その患者さんについて、よく知ってくれている人がいると、なお相談しやすい。

そんな経験から、開業したときに、患者さんのことを医者しか知らないという状況はできるだけ作らないようにしよう、と決めました。心理師やソーシャルワーカーに面談してもらったり、看護師に事前の聞き取りに行ってもらったり、毎日最初に来院患者さんに関する申し送りをしたりして、情報共有するようにして、私以外にも誰かはこの患者さんのことを詳しく把握している、という状態にしました。そうすることで、患者さんも医者にしか相談できないのではなくて、他のスタッフに相談することも出来ます。私もスタッフも、患者さんを抱え込むのではなくて、みんなに相談して治療に当たれます。

あとは、業務効率の観点もあります。他のスタッフに情報収集を助けてもらうことで、私は困りごとの把握と、お薬の調整や対策を考えることに注力できます。できるだけたくさんの患者さんの相談に対応するために、役割分担して働くスタイルというのはとても大事になってくると思います。他の科ではすでにされている業務分担、多職種による協働については、精神科にも徐々に浸透してきたように思います。医師一人で出来ることは限られています。これからもスタッフに助けてもらいながら、診療を続けていきたいと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

少し前に購入し、しばらく置いてあった本です。Amazonで確認したら、2021年に購入してました。寝かせすぎです。反省します。
中井久夫先生が推薦しているので惹かれて購入しました。

子どものための精神医学
amzn.asia
2,750円

読みたいと思った動機
思春期患者さんの診察に積極的に取り組んでいるところではあるのだけれども、いわゆる児童精神科医としての知見をきちんと知りたいと思ったから。

得たい知識
子どもを診る上で、参考になることや、気をつけること、子どもの精神医学の本質的なところが知りたい。

私は中学生以上は診察させてもらっていますが、大人(18歳以上)しか診ない診療所も多く、児童精神医学というのは精神科の中でも独特の分野、専門性の高い分野であると認識されています。

私は摂食障害を診るようになったため、摂食障害の好発年齢である中学生・高校生を見る機会が増え、また大人の発達障害を診るようになったため、子どもの発達障害の理解も深まりました。普通の「児童精神科医」とは、専攻のルートが異なる感じです。

一般精神科医にとっての、子どもを診る難しさが、この本を読むと納得できます。子どもを診るためには、子ども本人を診るだけではダメで、学校、家庭、社会、いろんなところをみる視点が必要になります。「医学」だけでなく「教育」「養育」の視点が重なってきます。

そして、その子どもたちを「診断」するということ。これはもう「困難」というより「無理」といえるものになってくる。この図書では「神の領域」とまで書かれてました。私も、思春期の方の診断て本当に難しいと思っていましたが、医学の視点だけでなく教育養育社会が重なって、本人の困りごとになっているとしたら、それを分類し病名をつけることにこだわるよりも、困りごとを整理し個別対応していくのが現実的になると思います。

この本は、内容の多くが発達障害、特に自閉症グループに関することが多いです。それだけ、児童精神医学の中での、自閉症スペクトラムと言われる領域の子どもたちとその親をどう支援していくか、がとても大事なテーマなのだろうと思います。そしてそれらに併発する不安、うつにめぐる問題。発達トラウマと言われる問題。また、子どもの問題だけではなく、「育つ側のむずかしさ」を述べたのちに「育てる側のむずかしさ」として、家族の問題や、「子育て一般の問題」を上げています。社会の変遷の中で、子育て環境や子どもを取り巻く環境、いじめ問題にも変化が起きていて、今の子どもたち、今の子育て世代はこんなふうになっているのか、と大変勉強になりました。

自分の経験の中で判断しようとせずに、今の子どもたち、今の子育て家庭、今の教育現場で一体何が起きているのか、常にアンテナを張りながら、困りごとに寄り添えるようにありたいと思います。
カテゴリー: 総合
投稿者: furujinmachi

先日見たオンデマンドの研修で、インフォームド・コンセントの話がありました。

昔のお医者さんは「とにかくこれが一番いい」と、患者さんに説明せずに治療を進めることが多くて、これは「パターナリズム」という考え方、やり方でした。その後、逆に、患者さんが自分で決めてください、という「インフォームド・コンセント」が大切にされるようになりました。でも、それがかえって「専門的なことまで一人で決めなきゃいけない」というプレッシャーになってしまうこともありました。
そこで最近では、「患者さんと医療者が一緒に考えて、納得できる治療を選ぶ」という「SDM(Shared decision making:共同意思決定)」という考え方が広まっています。

ただ、「SDM(共同意思決定)」をする上でも、「インフォームド・コンセント」の考え方も大事で、「インフォームド・コンセント」を丁寧にやっていく延長上に、「SDM(共同意思決定)」があると考える方が適切であると思います。

オンデマンドの研修では、丁寧な「インフォームド・コンセント」について解説されていました。
内科でも、この「インフォームド・コンセント」が必要になるのは、何か検査をして、その結果を伝え、治療をどうするか、という場面です。
そこで、結果だけ伝えて、「治療どうします?」といった聞き方では、患者さんが本当に自分の意見を考えて伝えることが難しかったり、知識の足りなさから妥当な判断ができなかったりといった問題点が出てきます。
では、どのような手順で、結果説明を行い、治療方針を決めるのが良いのでしょうか?

まず、来院理由や困りごとの整理を一緒に行います。
そもそも、最初にどういった困りごとを抱えて病院に来て、その話を聞いた上で、必要な検査を受けてもらったことを振り返ります。

その上で検査を行ったこと。
いくつか検査を受けてもらった場合もありますし、初診の時は患者さんも緊張して、検査の説明を十分に聞けておらず、医者に言われたから受けた、みたいな場合もあると思うんですよね。再度、こういった検査を受けてもらいました、ということを丁寧におさらいします。

そういった振り返りを行った後に、改めて検査結果の説明をします。
そうすると、なぜこの検査をしたのか、その結果の意味するところが何なのかを改めて整理して受け止めやすくなると思います。
そして、結果が本人にとって良い結果である場合も、悪い結果である場合もあります。結果を聞いて、どう感じたか、そのことへの思いやりを向ける時間が必要になります。そして、本人がどうなりたいかを意思表示してもらった上で、それに対して医療機関が何が出来るかの説明をしていく、それが本来の「インフォームド・コンセント」ということになります。

研修では、がん患者さんへの説明を前提とした話でしたが、精神科/心療内科でも、全く同じようにしていけたら、それが理想と思いました。

本人がどうしたいか、どうなりたいかがすぐに考えられないこともありますし、医療機関が出来ることを提示しても、それをすぐ決められないこともあると思います。その場合は、一旦持ち帰っていただき、2週間後等に予約を取っておいて、あらためて気持ちを聞いたりもしています。今の医療制度では、なかなか診察時間が取れないのも事実です。その中でなんとか工夫しながら、患者さんが受け入れられるように結果説明をしていきたいと思います。