精神科医のつぶやき「てんかんは精神疾患?」 (2025/10/07)
投稿者: furujinmachi
先日、患者さんより、「てんかんは精神疾患ではないと思っているんですが、なぜてんかんの人は、精神障害者手帳を交付されるのですか?」という質問をいただきました。
てんかんの人がすべて精神障害者手帳の取得要件を満たすわけではありませんが、治療状況によっては精神障害者手帳を交付される方もいます。でも確かに、なぜ「精神障害」なのでしょう?これは言われてみて私も、「確かに、なぜだ?」と感じました。
まず、てんかんが精神疾患なのかどうか、というところの確認からですが、もちろん、てんかんは医学的には精神疾患ではありません。
てんかんは、脳の神経細胞が一時的に異常な電気活動を起こすことによって発作が生じる「脳の病気」であり、神経疾患(neurological disorder)に分類されます。
しかし、日本の制度上、「精神障害者保健福祉手帳(以下、精神手帳)」の対象に含まれています。これは制度的・歴史的な経緯によるものであり、医学的な分類とは別の観点で成り立っているということになります。
では、なぜてんかんは「精神障害者保健福祉手帳」の対象になっているのでしょうか?
① 制度上の理由
精神障害者保健福祉手帳は、1995年に精神保健福祉法の改正によって制度化されました。その際の手帳の対象疾患として、以下のような病態が含まれました:
統合失調症
うつ病・躁うつ病
高次脳機能障害(交通事故後など)
発達障害
てんかん
てんかんがここに含まれた理由は、発作に伴う社会的制約や就労困難など、生活機能の障害という観点から配慮が必要とされたためです。
② 歴史的な背景
てんかんはかつて、精神病院での管理対象とされていた歴史があります。特に戦前~昭和中期には、精神病や知的障害と混同され、「特殊教育」や「社会的隔離」の対象とされることもありました。
このため、日本では長らく精神障害に準じた扱いを受けてきた経緯があります。私が研修医の頃は、てんかんの患者さんで精神科に通院されている方が一定数いらっしゃいましたし、精神科医のなかで、てんかんの専門医もたくさんいました。しかし、今ではてんかん専門医をもっている精神科医はかなり少数派になってきております。てんかんの方はほとんどが神経内科か脳神経外科に通院されています。
国際的にはどうなのでしょうか?
WHOの「国際疾病分類(ICD-11)」や、米国精神医学会の「DSM-5」においても、てんかんは神経疾患に分類されています。
実際、欧米ではてんかんは精神障害者の枠組みではなく、身体障害や神経疾患として支援されることが多いです。
今後の展望は?
現時点で日本において、てんかんを精神手帳の対象から外すという動きは明確にはないようです。
ただし、以下のような議論がされています:
「精神障害者保健福祉手帳」という名称自体が実態に合っていない
精神疾患だけでなく、発達障害や高次脳機能障害、てんかんなど多様な状態が含まれるため
「機能障害」や「社会的制約」を軸にした、新しい分類や支援制度が望まれる
また、障害者総合支援法の下では、てんかんのある人も「難病」や「身体障害」「精神障害」とは異なる枠組みで支援対象となる場合があります。こうした制度が今後発展すれば、より適切な支援の枠組みが整う可能性があります。
いずれにせよ、いずれかの段階で、てんかんが「精神障害者手帳」の対象から外れるようになっていく方が良いでしょうね。制度の見直しには時間がかかるでしょうが、病気の分類と制度の分類が一致するようになって欲しいと思います。
てんかんの人がすべて精神障害者手帳の取得要件を満たすわけではありませんが、治療状況によっては精神障害者手帳を交付される方もいます。でも確かに、なぜ「精神障害」なのでしょう?これは言われてみて私も、「確かに、なぜだ?」と感じました。
まず、てんかんが精神疾患なのかどうか、というところの確認からですが、もちろん、てんかんは医学的には精神疾患ではありません。
てんかんは、脳の神経細胞が一時的に異常な電気活動を起こすことによって発作が生じる「脳の病気」であり、神経疾患(neurological disorder)に分類されます。
しかし、日本の制度上、「精神障害者保健福祉手帳(以下、精神手帳)」の対象に含まれています。これは制度的・歴史的な経緯によるものであり、医学的な分類とは別の観点で成り立っているということになります。
では、なぜてんかんは「精神障害者保健福祉手帳」の対象になっているのでしょうか?
① 制度上の理由
精神障害者保健福祉手帳は、1995年に精神保健福祉法の改正によって制度化されました。その際の手帳の対象疾患として、以下のような病態が含まれました:
統合失調症
うつ病・躁うつ病
高次脳機能障害(交通事故後など)
発達障害
てんかん
てんかんがここに含まれた理由は、発作に伴う社会的制約や就労困難など、生活機能の障害という観点から配慮が必要とされたためです。
② 歴史的な背景
てんかんはかつて、精神病院での管理対象とされていた歴史があります。特に戦前~昭和中期には、精神病や知的障害と混同され、「特殊教育」や「社会的隔離」の対象とされることもありました。
このため、日本では長らく精神障害に準じた扱いを受けてきた経緯があります。私が研修医の頃は、てんかんの患者さんで精神科に通院されている方が一定数いらっしゃいましたし、精神科医のなかで、てんかんの専門医もたくさんいました。しかし、今ではてんかん専門医をもっている精神科医はかなり少数派になってきております。てんかんの方はほとんどが神経内科か脳神経外科に通院されています。
国際的にはどうなのでしょうか?
WHOの「国際疾病分類(ICD-11)」や、米国精神医学会の「DSM-5」においても、てんかんは神経疾患に分類されています。
実際、欧米ではてんかんは精神障害者の枠組みではなく、身体障害や神経疾患として支援されることが多いです。
今後の展望は?
現時点で日本において、てんかんを精神手帳の対象から外すという動きは明確にはないようです。
ただし、以下のような議論がされています:
「精神障害者保健福祉手帳」という名称自体が実態に合っていない
精神疾患だけでなく、発達障害や高次脳機能障害、てんかんなど多様な状態が含まれるため
「機能障害」や「社会的制約」を軸にした、新しい分類や支援制度が望まれる
また、障害者総合支援法の下では、てんかんのある人も「難病」や「身体障害」「精神障害」とは異なる枠組みで支援対象となる場合があります。こうした制度が今後発展すれば、より適切な支援の枠組みが整う可能性があります。
いずれにせよ、いずれかの段階で、てんかんが「精神障害者手帳」の対象から外れるようになっていく方が良いでしょうね。制度の見直しには時間がかかるでしょうが、病気の分類と制度の分類が一致するようになって欲しいと思います。