うえだ小児科医院 静岡駅,登呂,駿河区,静岡市 小児科

予防接種 (Ⅰ)

 小児科医の大切な仕事の一つに予防接種があります。
基本的な考え方について少しお話をさせて下さい。

ワクチンの歴史

 人類の病との戦いの歴史は、古来から感染症に終始してきました。
みなさんも聞いた事があると思いますが、イギリスのジェンナーという人が1798年に天然痘のワクチン開発に成功し、世界中にワクチンが広がる事で約200年後の1980年にWHOが根絶宣言をしました。
 世界中で多くの人の脅威となっていた感染症が一つ克服されたのですが、WHOの根絶目標となっているポリオと麻疹に関しては未だに達成されていません。その後も大変な数のワクチンが開発されていますが、ワクチン効果で死亡例や後遺症例の劇的な減少にはつながるものの、それらの病気が根絶されている訳ではありません。
 

ワクチンの副作用

 ただし異物を身体に入れて免疫を誘導するタイプが多いため、なんらかの副作用を伴う事があります。注射部位のはれや発赤などはよくありますが、接種との関係は簡単に判断できます。しかし発熱に関しては、集団生活で病気がうつる事も多いのでワクチンのためと確定する事は簡単には出来ません。ましてや後遺症が残るような痙攣や全身症状、命を落とすようなエピソードが本当にワクチンによるものかどうかは極めて困難な判断となります。原因不明の乳児突然死症候群が年間200例以上報告されていますので、ワクチンの数が多くなれば接種後のタイミングで死亡例が紛れ込む事も当然予想されます。
 しかし我が国の定期接種ワクチンにおいては、このような紛れ込みを疑わせる例についても、関係が確実に否定できなければ補償の対象となっています。 
 

ワクチンのメリット

 ワクチン接種のメリットは、自分のお子さんだけしか見ていないご両親にとっては実感しにくいのはやむを得ませんが、副作用と比べて大きなメリットが期待出来るための接種ですので冷静に判断をしていただけたらと思います。

 麻疹を例にとると、我が国でも1947年には患者数18万人、死者2万人と報告され、定期接種が始まった1978年でも患者3万4千人、死者181人と報告されています。死者が10人を切るようになったのは、2000年を越えてからに過ぎません。いずれもワクチン未接種の例ばかりで、罹患者もほとんどが未接種、または小さい時に一度接種しただけになっていた成人です。そのため現在はMRワクチンを2度接種することに変更され、数年以内の麻疹根絶が期待されています。これに対して死亡に至る副作用については、ワクチン接種者が年間90万人程の中で、副作用を否定できない死亡例を含めても数年に1名程度です。
 

ワクチンを打ちたくない方

 まれにですが、すべてのワクチン接種を拒否されるご両親がいらっしゃいます。ご両親の判断が自分で物事を決める事の出来ないお子さんへ影響するので、小児科医としては大変につらい思いにさせられます。
 欧米への留学の際には、すべてのワクチンの接種証明書がなければ留学を受け入れてはもらえません。その時になってすべてを自費で接種する事になると、十数万円の出費となりますのでよくお考え下さい。
 またお子さんが職業を選択する際にも大きな制約があります。医師や看護士などの医療関係者、教育関係者などでは進学の段階でワクチン接種が必要条件となる事が最近の方向です。お子さんの将来の道をさまたげるような事になりますのでご注意下さい。