うえだ小児科医院 静岡駅,登呂,駿河区,静岡市 小児科

子育て (Ⅱ)

「キレる」と「がまん」

  こどもがなにか事件や問題を起こすと、親の愛情不足、こどもに対する配慮が乏しい、こどものストレスが多いなどと取り沙汰されますが本当にそうでしょうか?
  今よりはるかに生きる事に厳しい時代だった戦前、戦中のこども達は最近のような問題行動には走らなかったのです。どうしてでしょうか?現代におけるこども達への愛情の注ぎ方に問題があるのではと思います。
  昔は家庭の中でこどもにも年齢相応の役割分担があり、一家協力して支え合って生きていたため、自然に身に付いた「がまんする」ことが大きな意味を持っていたのではと思います。

  がまんをするという事は、「欲求が阻止され欲求不満の状態になっても不当な行動に訴えず、それに耐えて適応していく事の出来る個人の能力」と定義した人がいます。
  いいかえると「心の免疫」、「心のブレーキ」、「心の抵抗力」と言えるでしょう。しかも、この力は人生の目標など大きな目的の実現に向けて日々の生活を自らコントロールして努力していく力でもあります。
  このがまんが大きな成功につながる事で達成感を経験し、さらに新たな目標が生まれる良い循環を生みます。逆は、がまんが出来ない、すぐにあきらめる、結果はついてこないため挫折を味わい、次の目標には向かう気もおきないという負の循環となります。

  ではこの力はいつ育つのでしょうか?乳児期から幼児期早期にかけて十分に甘えさせて安心感と自己肯定感を育て、幼稚園の頃からはその信頼感の上に立って甘やかしすぎない子育てでがまんをする事を学びます。
  がまんを覚える頃の過保護も過干渉も適切な成長をスポイルします。①言う事をききすぎ、②子どもが出来る事でも世話をやく、③失敗体験を排除しすぎ、④叱るべき時に叱らない、ほめるべき時にほめない、⑤養育態度に一貫性がない。はっとすることはありませんか?

  そのため最近のこどもは年齢相応に自分でものを考え、自分で判断してがまんをする力が育たず、すぐに自分を見失ってしまいます。ふくれたり、泣きわめいたり、すぐにキレて相手を傷つけたり、最後には殺してしまう事すらおこります。おなじように自分を傷つけたり、自殺を企てたりする事にもなります。

  こどもを十分に甘えさせる時に甘えさせず、わがままが多くなる頃に甘やかし放題にして、こどもが自立していくべき時に過干渉になるケースも多いのではと思います。勘違いの上に成り立った誤った愛情の注ぎ方に大きな原因があると思いませんか?
  いつでも「親が自分を認めて存在を受けとめてくれている」、こんな思いを持っているお子さんは、キレてしまう寸前で踏みとどまる事が出来ます。たえず心に刻み込んでおいて下さい。
  最後に、こどもは親をみて育ちます。キレるこどもにしないためには「キレる大人」にならない事です。
 

兄弟のねたみと嫉妬にどう対応するか?

  カインが弟アベルを殺害したという旧約聖書に始まる古代からの由々しき問題です。

祝福されない出来事:第二子の誕生は第一子にはすべてを奪われる大事件。
    親の愛や伴侶の愛を分かち合うのはつらい事であり、愛情が深いほど嫉妬も大きい。
      両親:「お前のことは大好きだよ、だからもう一人兄弟を持つようにしたんだ」
      こども:「そんなに大好きだったら僕一人で十分だろう」

      夫:「お前の事は愛しているよ、だから同じように愛する女性をもう一人つれて来たよ。
           これで寂しくないだろう、仲良くやってね」
      妻:「・・・・・・・」

ねたみを言葉で表現する: こどもが言葉を使って感情を解き放つのを助ける。
 「弟(妹)なんていなければ良いのに」、こんな思いはみんなが経験する当然の事として認めて上げる。
  「お母さんも妹が出来た時そう思ったわ、あなたも寂しいよね」
  「あなたが赤ん坊を好きじゃないのはみていればわかるわ、でも赤ちゃんはたたくためにいるんじゃないのよ、たたきたければこのお人形さんにしなさい」

  怒りは直接赤ん坊にぶつけたりチックや腹痛などの自分自身に向けて症状として現さずに、生きていない物に向かって象徴的に発散させた方が良い。

嫉妬のいろいろな顔:大人の中にもその後遺症が見える。
  兄弟間の対抗心は、異常なほど勝負にこだわるなど大人になってからの理不尽な対抗心のように想像以上にこどもの人生に影響を及ぼしている。

独占したいという欲求:愛は独占欲と表裏一体である。
  兄弟間の争いに腹を立て、その兆候を罰し、嫉妬の原因を与えない努力をしたり、物や言葉や思いやりを公平に与えたりしても、ねたみからは解放されない。
  同等に罰しても同等にほめても、愛を独占したいという欲求を消す事は出来ない。嫉妬を全面的にふせぐ事は出来ないが、危険なほど燃え上がらずに、嫉妬の火が安全にちらつく程度でおさめる事は出来る。

嫉妬を生む言葉と態度
  性別、年齢、容姿、知性、才能などでえこひいきしたり過大評価をしない。
  年齢は新しい特権や責任をもたらすべきで、同様に扱う必要はない。
  「お兄ちゃんは9時まで起きてていいよ。あなたも大きくなったらね」

公平にではなくそれぞれ独自に愛する
  はかりにかけられた公平さほど自滅的なものはなく、その努力はどんな人も疲れさせ、いらだたせる。
  こどもたちは愛を等しく分かち合う事など望んでおらず、独自に愛される必要がある。
 重要なのは平等ではなく質である。
  「君は君、赤ちゃんは赤ちゃん、君はたった一人の花子ちゃんなのよ。寂しかったらお母さんのおひざへおいで、あなたをとくべつに抱いてあげるから」