うえだ小児科医院
子育て (T)
神戸で起こった幼児殺傷事件(酒鬼薔薇聖斗事件)を覚えておられるご両親も多いと思います。
小児科医の私にとっても大変なショックでした。
あれから「こどもの育ち」が大変気になって、診療所の乳児健診の際に子育のお話をしたり、「静岡市こどもと親の精神保健ネットワーク」というグループ活動を主催してきました。
こんな経験をもとに少しお話しさせて下さい。
こどもが健全に育つという事
一言でいえば、生きる自信(自己肯定感、自尊感情)と耐性(我慢する力)がバランス良く育つ事につきます。

【乳幼児期:ほめて育てましょう】
おこさんがこの世に生を受け最初に無事スタートを切るには、周りの人たちが一生懸命ひたすら何も考えずにお世話をする事。
こうしてお世話を受け続ける中でこどもは、「自分はこの世に生まれて来て良かった。
こうして生きていく事を受け止めて見守ってくれている人が周りにはいる。」
こんな思いが芽生え、そして成長とともにほめ続ける事で自尊感情とか自己肯定感と呼ばれる思いがふくらんでいくのです。人が生きていく上では最も大切な感情であり、自動車に例えればエンジン、アクセルなのです。
これが損なわれた例がネグレクトを含む児童虐待です。
保護者の気分や都合でこどもに対応し、猫可愛がりにするかと思えばしつけと称して体罰を加える。
こんな事では、自分の存在そのものを丸ごと受け止めてもらっているという自信はこどもに育ちません。

【幼児期:ほめるだけで良いの?】
ほめまくって育てているうちにこどもの自信は大きくふくらみ、2歳を超える頃には家では一番偉い、世の中もすべて思う通りになる、なんていう過信につながっていくのがこの頃です。
そして3歳前になると欲しいものややりたい事、つまり欲望や欲求が芽生えてきます。
この時がちょうど一緒になりちびっ子ギャングと言われる年齢となります。
この時期の接し方が大きなターニングポイントになります。
社会的なルールとして、人のものをとる、かむ、殴るなどの暴力は断固止めるべきです。
ことばで言い聞かせる事は出来ませんから、大人が身体で割って入る事で制御するべきです。
次には物のおねだりや遊園地などのおねだりを野放図にせず家族全員の基準をはっきりさせる事です。
このような制御をかける事で自分の思いや欲求がすべて通る訳ではなく、我慢をして乗り越えていく経験をさせる事です。
つまり自動車に例えればブレーキなのです。

【学童期:こども同士が一緒に成長する】  
集団の中で自分を主張しながら必要に応じて自己抑制し、人の気持ちや思いを察して手を差し伸べる、こんな協調が出来れば素晴らしいと思いませんか。
こうなればしめたもの、けんかをしたり仲直りをしたり、お互いを尊重し協調して生きていく中で社会人の基礎ができていきます。
小学校へ入学しても良い仲間と切磋琢磨しながら成長をしていくでしょう。
家庭では、年をおうごとに両親の理想のこども像と少しずつずれが生じてきます。
ついつい過干渉になりがちですが、こどもの自立をさまたげる結果になります。

【思春期:つらい時代です】
中学校へ入ると進学をはじめ、友人関係などのストレスに大きく見舞われます。
高校進学してからは将来の職業選択も加わり一層のストレスとなります。
この年代の我が国のこども達は、ユニセフの調査によれば世界中で最も劣悪な環境におかれているとされ、以前から教育環境や社会環境などの改善勧告を受けています。
この頃には親の理想のこども像とは大きなギャップが出来て、あきらめるしかない事になりますが、その結果かえってこどもが見えて来て子育ての肩の力も抜けます。
自分をありのままに受け止め始めてくれた両親の思いをわかったこどもは自己肯定感が回復します。
あきらめてからやっと子育てが始まる、といった人がいます。

【社会人:今までの集大成としての結果が問われます】
こども時代の家庭環境、友人関係、学校生活などの結果が問われる事になります。
自尊感情が育ち損なった人は、何をするにも自信がなく、失敗を恐れ、人の気持ちを受け止めてあげる余裕もありません。
逆に自信過剰で耐性が育たなかった人は、他人はどうでもよく身勝手な行動が目に余るような事になります。
他人と協調してお互い思いやりながら生活をともにする事は出来ず、本当の友人がいない孤独な人生となります。
社会の中で一見成功したかのように見えても、周囲の人からの尊敬は得られないケースも多いように思います。
自分の存在そのものを認めてくれる人がいなければ、人は自信を持って生きていけません。
せめて親だけでもこどもを認めて上げる努力をしてあげて下さい。

【甘えさせる事と甘やかす事の違いがわかりますか?】
甘えさせる事は、こどもの出来ない事をやってあげ、不安な気持を受け止めてあげる事です。
こうして自尊感情をはぐくみます。
甘やかす事は、いつまでもこどもの出来る事に手を出し、親の都合でものを買い与えたりこどもの要望をうのみにし続ける事です。
こうして耐性の獲得をスポイルします。

【「こどもは手のひらの中の卵のように」】
管理過剰になって強く握ると割れてしまいます。
ほったらかしでは手のひらから落ちて割れてしまいます。

【子育てに役立つ推薦図書】
『がんばらない子育のコツ』  ジョン・グレイ著 小学館
『キレる子、キレない子』  石田一宏著 大月書房
『10代の子どもが育つ魔法の言葉』  ドロシー・ロー・ノルト著 PHP研究所
『子どもを叱らずにすむ方法おしえます』  スティーヴ・ビダルフ著 草思社
『子どもの話にどんな返事をしていますか?』  ハイム・G・ギノット著 草思社
『子どもに言った言葉は必ず親に返ってくる』  ハイム・G・ギノット著 草思社
『子育てハッピーアドバイス 知ってて良かった小児科の巻』  吉崎達郎著 一万年出版
『子育てハッピーアドバイス もっと知りたい小児科の巻』  吉崎達郎著 一万年出版
『子育てハッピーアドバイス 大好きが伝わるほめ方・叱り方』  明橋大二著 一万年出版

今の時代は良い本ほど早々と絶版になったりします。
探してすでに絶版だったらすみません。

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更新日:2012-10-23

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