秋になり、RSウイルス感染症が増える季節に入ってきました。小児科にとってはRSウイルスも重要な感染症です。
RSウイルス感染症は生後数か月から1歳台に多く3歳未満までで全年齢の約80%を占めます。このウイルスは気管支の一番奥の方の細い気管支に好んで感染をおこします。ただでさえ細い乳幼児の気管支が、炎症でさらに狭くなり、痰も多くなってなおさら空気が通りづらくなります。さらに、鼻汁も多く、鼻呼吸もつらくなります。その結果、主な症状は咳、鼻汁、発熱で、なんといっても気管支が狭くなるので喘鳴(ゼーゼー)を伴い、呼吸が早くなったり、胸がペコペコするような呼吸困難が強くなれば、入院となることがあります。呼吸がしづらいので、不機嫌になり、飲みも悪くなります。特に、早期産で生まれたお子さんや生まれつき心臓疾患や肺の疾患を持っているお子さんは重症になりやすい傾向があり、現在はこういうお子さんには感染を予防する注射がありますが、正常に生まれ、普段元気なお子さんには注射の適応はありません。
このウイルスに感染した乳幼児が咳やくしゃみをすると、気道分泌物や鼻汁に含まれたウイルスが周囲に飛び散り、他の人がそれを吸い込んで感染する「飛沫感染」。さらに、乳幼児に濃厚に接触する保育士さんや医師、看護師さんが患者のウイルスに手などで触れ、別の人に触ってうつしてしまう「接触感染」もあります。人間は無意識にウイルスが付着した手で眼や鼻、口を頻繁に触れるので感染は容易におきてしまいます。
大学病院に在籍していた時も毎年秋以降から春先にRS感染症の患者さんが大勢受診され、その中には入院が必要なお子さんもでてきます。また、大学病院ですので近隣のクリニックからの入院依頼も多く、そのためこの感染症が入院できる部屋が満床になり、他の入院病院を探さなければならないなど、苦労も多いのです。
ところで、なぜ、“RS”という名前がついているのか、医大生も(ひょっとしたら医師も)その由来を知らない人がいるかも知れません。Rは“呼吸の”を意味するRespiratoryから、Sは“合胞体”を意味する
Syncytialからきています。合胞体ってむつかしい言葉ですが、これはこのウイルスが感染した細胞を電子顕微鏡でみると、細胞の核がいくつも集合した様にみえることからきています。
このRSウイルスは鼻水を綿棒で採って検査すれば感染しているかどうか、すぐに結果が分かります。
残念ながら、たとえRSウイルスが原因だと判明しても、特効薬はありません。咳や痰の薬などの症状に応じた薬が主なものです。また、気管支の薬を吸入することもあります。全員が重症というわけではありませんが、先述のように、飲みが悪ければ点滴をしたり、呼吸困難がひどければ、入院の適応となる場合もあります。
特効薬はないのに、なぜ検査をするのか?。治療に結びつかない検査は必要ない、という意見もあります。反面、親御さんにしてみれば、「原因を知りたい」という要望もあります。しかし、RSウイルスに感染したと分かれば、他のお子さんへの感染予防に効果的ではないかと思います。たとえば、保育園では園のお子さんがRSウイルスに感染したという情報を職員が持っていれば、他児への感染予防対策を立てることができます。特に病院ではRSウイルスの患者が入院する場合、他の入院患者さんにうつさない様、医師や看護師は細心の注意を払います。
RSウイルスは、まとめると①秋から冬、初春に流行する気管支炎(細気管支炎)の原因。②生後数か月から1歳代に多く、早期産で生まれたり、心臓疾患などを持つ児は重症化する傾向がある。③症状は咳、鼻汁、発熱、ゼーゼー(喘鳴)、呼吸困難。④診断は鼻汁から検査し、診断は短時間で可能。⑤しかし、特効薬治はなく、まずは咳や痰などの薬。吸入を行うことも多い。⑥呼吸状態が悪化したり、苦しくて哺乳ができないと入院となる場合がある。
以上の様になかなか手ごわいウイルスですが、「相手」を少しでも知って、たとえ感染しても安心につながれば幸いです。(松田)
RSウイルス感染症は生後数か月から1歳台に多く3歳未満までで全年齢の約80%を占めます。このウイルスは気管支の一番奥の方の細い気管支に好んで感染をおこします。ただでさえ細い乳幼児の気管支が、炎症でさらに狭くなり、痰も多くなってなおさら空気が通りづらくなります。さらに、鼻汁も多く、鼻呼吸もつらくなります。その結果、主な症状は咳、鼻汁、発熱で、なんといっても気管支が狭くなるので喘鳴(ゼーゼー)を伴い、呼吸が早くなったり、胸がペコペコするような呼吸困難が強くなれば、入院となることがあります。呼吸がしづらいので、不機嫌になり、飲みも悪くなります。特に、早期産で生まれたお子さんや生まれつき心臓疾患や肺の疾患を持っているお子さんは重症になりやすい傾向があり、現在はこういうお子さんには感染を予防する注射がありますが、正常に生まれ、普段元気なお子さんには注射の適応はありません。
このウイルスに感染した乳幼児が咳やくしゃみをすると、気道分泌物や鼻汁に含まれたウイルスが周囲に飛び散り、他の人がそれを吸い込んで感染する「飛沫感染」。さらに、乳幼児に濃厚に接触する保育士さんや医師、看護師さんが患者のウイルスに手などで触れ、別の人に触ってうつしてしまう「接触感染」もあります。人間は無意識にウイルスが付着した手で眼や鼻、口を頻繁に触れるので感染は容易におきてしまいます。
大学病院に在籍していた時も毎年秋以降から春先にRS感染症の患者さんが大勢受診され、その中には入院が必要なお子さんもでてきます。また、大学病院ですので近隣のクリニックからの入院依頼も多く、そのためこの感染症が入院できる部屋が満床になり、他の入院病院を探さなければならないなど、苦労も多いのです。
ところで、なぜ、“RS”という名前がついているのか、医大生も(ひょっとしたら医師も)その由来を知らない人がいるかも知れません。Rは“呼吸の”を意味するRespiratoryから、Sは“合胞体”を意味する
Syncytialからきています。合胞体ってむつかしい言葉ですが、これはこのウイルスが感染した細胞を電子顕微鏡でみると、細胞の核がいくつも集合した様にみえることからきています。
このRSウイルスは鼻水を綿棒で採って検査すれば感染しているかどうか、すぐに結果が分かります。
残念ながら、たとえRSウイルスが原因だと判明しても、特効薬はありません。咳や痰の薬などの症状に応じた薬が主なものです。また、気管支の薬を吸入することもあります。全員が重症というわけではありませんが、先述のように、飲みが悪ければ点滴をしたり、呼吸困難がひどければ、入院の適応となる場合もあります。
特効薬はないのに、なぜ検査をするのか?。治療に結びつかない検査は必要ない、という意見もあります。反面、親御さんにしてみれば、「原因を知りたい」という要望もあります。しかし、RSウイルスに感染したと分かれば、他のお子さんへの感染予防に効果的ではないかと思います。たとえば、保育園では園のお子さんがRSウイルスに感染したという情報を職員が持っていれば、他児への感染予防対策を立てることができます。特に病院ではRSウイルスの患者が入院する場合、他の入院患者さんにうつさない様、医師や看護師は細心の注意を払います。
RSウイルスは、まとめると①秋から冬、初春に流行する気管支炎(細気管支炎)の原因。②生後数か月から1歳代に多く、早期産で生まれたり、心臓疾患などを持つ児は重症化する傾向がある。③症状は咳、鼻汁、発熱、ゼーゼー(喘鳴)、呼吸困難。④診断は鼻汁から検査し、診断は短時間で可能。⑤しかし、特効薬治はなく、まずは咳や痰などの薬。吸入を行うことも多い。⑥呼吸状態が悪化したり、苦しくて哺乳ができないと入院となる場合がある。
以上の様になかなか手ごわいウイルスですが、「相手」を少しでも知って、たとえ感染しても安心につながれば幸いです。(松田)
毎年、秋になればクリニックもインフルエンザワクチン接種の予定を立てなければなりません。
インフルエンザには「ウイルス」と「細菌」があり、まったく別物です。
毎年、流行し、秋以降に子供から大人までワクチンを接種するのがインフルエンザウイルスに対してのもの。乳幼児にヒブと呼ばれるワクチンを接種しますが、こちらはインフルエンザの細菌に対する予防接種です。ヒブの名称は菌の正式名称であるHaemophilus influenzae type bからつけられました。
一般に、“インフルエンザ”といえば、ウイルスの方を指しますが、ではなぜ、ウイルスと細菌という2種類のインフルエンザがあるのでしょう?。
インフルエンザウイルスの感染症は古代エジプト時代からあったとされるくらい、大昔から流行があったようです。急に高熱で多くの人が次々と倒れる。大昔はきっと今以上に恐怖の現象だったでしょう。2009年、世界的に新型インフルエンザがパニックになりましたが、この現代になっても恐怖でしたね。“宇宙から何だか悪い影響がきているのではないか”。昔の人は思いました。
その悪い“影響”=influenceがインフルエンザの語源とする説があります。
世界の学者はその原因を我先に発見しようと頑張ったのでしょう。1800年代の終わり、インフルエンザの患者の痰から新種の細菌が発見されました。この発見者が日本の北里柴三郎かドイツ人かという議論があります。この細菌がインフルエンザの原因であるとして、当初、“インフルエンザ菌”と命名されました。しばらくの間、本当にこの細菌が昔からのインフルエンザの原因であるのか、議論がありました。1800年代から1900年代初頭は細菌よりも小さい微生物であるウイルスの証明は困難だったのでしかたありません。しかし、1933年、イギリスの研究者らがついにインフルエンザウイルスA型のウイルスを発見し、ようやく、古来からのインフルエンザの原因として証明されました。
一方、悪く言えば“間違ってインフルエンザの原因とされてしまった”インフルエンザ菌。しかし、かわいそうどころか、現在でも乳幼児の細菌性髄膜炎などの原因として微生物学や小児科感染症では主役のひとつです。
インフルエンザ、ウイルスも細菌(ヒブ)も予防接種がありますが、接種時、これらの事を思いながら接種を受けると、痛みも一味違うかも知れません。(松田)
インフルエンザには「ウイルス」と「細菌」があり、まったく別物です。
毎年、流行し、秋以降に子供から大人までワクチンを接種するのがインフルエンザウイルスに対してのもの。乳幼児にヒブと呼ばれるワクチンを接種しますが、こちらはインフルエンザの細菌に対する予防接種です。ヒブの名称は菌の正式名称であるHaemophilus influenzae type bからつけられました。
一般に、“インフルエンザ”といえば、ウイルスの方を指しますが、ではなぜ、ウイルスと細菌という2種類のインフルエンザがあるのでしょう?。
インフルエンザウイルスの感染症は古代エジプト時代からあったとされるくらい、大昔から流行があったようです。急に高熱で多くの人が次々と倒れる。大昔はきっと今以上に恐怖の現象だったでしょう。2009年、世界的に新型インフルエンザがパニックになりましたが、この現代になっても恐怖でしたね。“宇宙から何だか悪い影響がきているのではないか”。昔の人は思いました。
その悪い“影響”=influenceがインフルエンザの語源とする説があります。
世界の学者はその原因を我先に発見しようと頑張ったのでしょう。1800年代の終わり、インフルエンザの患者の痰から新種の細菌が発見されました。この発見者が日本の北里柴三郎かドイツ人かという議論があります。この細菌がインフルエンザの原因であるとして、当初、“インフルエンザ菌”と命名されました。しばらくの間、本当にこの細菌が昔からのインフルエンザの原因であるのか、議論がありました。1800年代から1900年代初頭は細菌よりも小さい微生物であるウイルスの証明は困難だったのでしかたありません。しかし、1933年、イギリスの研究者らがついにインフルエンザウイルスA型のウイルスを発見し、ようやく、古来からのインフルエンザの原因として証明されました。
一方、悪く言えば“間違ってインフルエンザの原因とされてしまった”インフルエンザ菌。しかし、かわいそうどころか、現在でも乳幼児の細菌性髄膜炎などの原因として微生物学や小児科感染症では主役のひとつです。
インフルエンザ、ウイルスも細菌(ヒブ)も予防接種がありますが、接種時、これらの事を思いながら接種を受けると、痛みも一味違うかも知れません。(松田)